思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

シビル・ウォー アメリカ最後の日

☆☆★

評判もそうだが、何よりラストシークエンス以外はロードムービーということで、食指が減退したのだが、音響が劇場向け、というので観に行った。
感想を一言で言えば、ポリコレ的にはツッコミどころをことごとく先回りして封じている。まるで『君の名は』みたいな周到な内容(^^;) 演出的には、あくまでも個人的な好みとして、好きになれない。

音の演出は、特に銃の音がガキン!という感じで、過剰に大きくミックスされていて、その度に眠くなっていたのを起こしてくれた(^^;)

主人公たちのバディとし男のジャーナリストが、なんか勝村勝信に似てるなあと思って見ていた。でも、彼はビデオもカメラも持ってない。彼の役割は単なるドライバー? いちおう報道IDは持っていたけど。

ミリオタ的には、終盤にワシントンD.C.の側まで行って登場するエイブラムス戦車が、なんだか違和感があったが、どこが違うのか分からず、終始気持ち悪かった。なわんだかレオパルト1を改造したみたいな、縦横比が高い。もう少し平べったいイメージなんだけどなぁ。車でいえば、シャコタンの反対で、ダンパーが伸び切った状態というか……。
唯一、観た価値があったと思ったのは、戦闘ヘリ・アパッチが、市街地で機銃掃射や、ロケット弾をぶっ放すところ。ここは、街灯も消えていて暗く、正にモンスターのような凶悪さで、凄かった。
ただし、これまで冒頭の大統領以外は、主人公たちの視点で通してきたのに、ワシントンD.C.攻略戦になると、このへんのシーンで、「神の目視点」になること。ミリオタ的には最高に燃える格好いい演出なんだけど、映画としては破綻している、複雑なところなのだ。

歌もの嫌いの私なので、本作で何度も昔の歌が流れるので、合計で減点4点(^^;) 忖度するなら、基本は低予算なので、繊細な劇伴制作が期待できなかったのかなぁ……。作るとしたら、『パトレイバー2』みたいなトーンになるのかも。

ってことで、結論としては、どうせなら『エビデンス』みたいに、モキュメンタリー風に、主人公が回していたビデオのPOVとかにすれば良かったのに……(´Д`)

以下ネタバレ

西軍を、極左のサンフランシスコと、極右のテキサスの連合にしたのも、左翼映画すなわち反トランプ映画じゃないかというツッコミを避けるためだけに拵えた設定にしか思えなかった。後に、この2州が、州兵の軍事力としてはアメリカのトップ2であることを知ったが、さりとてアメリカ合衆国軍には勝てまい。そう、本作では米軍の存在は無視されているのだ。(緑色のエイブラムスは、州軍ということなのかな? 模型誌でも緑の単色エイブラムスって見たことないなぁ)
中盤で、中国人を射殺する、本作で有数のインパクトのあるシーンがある。が、それも、単なる人種差別とも、中国人の海外で迷惑言動による純粋な反感、共産党国家としての侵略性ゆえだとか、色々理由をつけられるように、敢えて理由を語られせていない、小賢しさ。
さらに、それが人種差別じゃありませんよ、という言い訳のため、大統領補佐官らしき人を敢えて黒人女にして、降伏しているのに、無抵抗状態で射殺させている。

また、純粋に映画の演出的に言っても、ずっと主人公たちの視点で物語を描いてきたのに、ワシントンD.C.に乗り込んだ時点で、戦闘機やヘリが首都を攻撃する神の目視点になるのも、統一性を欠く。ミリオタ的には、一番燃えるシーンなのだが……。特に、戦闘ヘリ・アパッチが、闇の中、ビルにミサイルを打ち込んだり、機関銃を連射するシーンは、悪魔的な破壊力(物理的にも精神的にも)があって、これだけで、元が取れた感じ。
第二幕の最後、先述の中国人が射殺されるシークエンス。老黒人が、車で突っ込んで兵士を跳ね飛ばす事で脱出の機会を得るのだが、これが映画的ウソ(^^;) エンジンをかけた(アメ車だし、電気自動車ではない)時点で、音で気づくし、それが跳ね飛ばすくらいの加速で迫ってくるんだから、近づいてくる途中で気がつく。それ以外は、周囲の環境音もしっかり入れているのに、ここだけはエンジン音を入れないのはアンフェア(^^;)
また、主人公が死体の穴に落ちて、倒れた主人公と、無数の死体を同列に見せる俯瞰のカットが印象的だが、これは(何故かいくつか観たレビュー動画では誰も触れてなかったけど)主人公が一旦死んで、生まれ変わった、という表現だろう。実際に、ワシントンD.C.に乗り込んだ彼女は、無謀に前へ前へと突っ込んで行く。
これ、覚醒したとも取れるが、クライマックスで撃たれかける(メンターたる伝説の女ジャーナリストに身替わりに助けられるのだが)訳だし、島本和彦流に言えば「若いうちは増長もよし」というところだろう。新入社員が、ちょっと仕事がうまくいき出して、調子に乗っている感じ。