思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

鵼の碑


京極夏彦
☆☆★
講談社ノベルス

百鬼夜行シリーズ」と書かれると、なぜか『巷説百物語』を連想しちゃうんだよなぁ……。「京極堂シリーズ」にしてくれないかなぁ。
で、『陰摩羅鬼の疵』に続く、何年ぶりかの新作。とうぜん、期待十分で臨んだのだが……。
まず、レイアウトにこだわりのある京極夏彦が、文字サイズを変更でき、ページ内レイアウトが固定できない電子版を許可した、ということに驚いた。分厚くて重い本作なので、私的にはありがたいことなのだが。
読んでみると、これ、少なくとも『女郎蜘蛛の理』以前の京極堂シリーズとは別物だよねえ。まるで、吉村達也とか西村京太郎なんかの、量産型作家の作品みたい。肝心の憑き物落としも、めちゃくちゃあっさりしていて、カタルシスがまるでない。
ミステリー的な謎も、「燃える碑石」「消えた死体」というもので、どうにもインパクトが弱い。
構成としても、シリーズキャラクターが、東京の各地から、日光のホテルに集合する一本道という感じで、会ってしまえば謎は解ける。しかも、京極堂は知らない間に調査を終えているという。なんやそれ(´Д`)

以下ネタバレ

もしかすると、メインは日本でも戦前から原子力ひいては原子爆弾の研究が行われていて、サイクロトロンも作られていた、という歴史の秘話を明かすことにあるのだろうか? だとしたら、それを知っていた私は、メインターゲットではなかった、ということになる。まあ、トリビアや知る人ぞ知るネタ、というのもミステリーではままある(特に論理や機械的トリックではない謎ものの場合)が、本作もその系統なのかも。
冒頭の謎の提示で「燃える碑」というのが登場した時点で、「まさか、光ってるのを燃えると言ってるんじゃないだろうな」と危惧していたのが当たってしまった。
原子力開発に反対する人が、いわばスパイ/工作員的に研究メンバーに加わる、という逆説的な展開は映画『アルキメデスの大戦』みいでちょっと面白かったが。