『ホームズと不死の創造者』
ブライアン展開ステイブルフォード著/嶋田洋一訳
☆☆★
ハヤカワ文庫SF
ミステリSFであることは間違いない。何せ、人工植物による殺人である。被害者は、骸骨だけ残して
、蔦がそれにからまり、花が咲き乱れる。実に魅力的なビジュアルではないか! SFは絵、というに相応しい。
ただし、そこから先は、単調かつ、ヨーロッパの古典美術の衒学ばかりで、謎にも、盛り上がりにもかける。改行のほとんどない、みっちりした文量の割に、本格ミステリとしては全然ダメ。
主人公の名前がシャーロット・ホームズ、という女性刑事であるのは、ホームズもののパスティーシュの中でも、出色のアイデアと言える。おまけに、ワトソンは彼女の上司、ときた(^^;)。
以下ネタバレ
作中では中世ヨーロッパの芸術家の名を冠する人物がたくさん登場するが、中でもモローには唸らされた。最初は西洋美術史、とりわけファンタジー系の絵が好きな人なら絶対外せない、ギュスターヴ・モローなのだが、それが最後には、SFファンなら古典中の古典、『モロー博士の島』のことだった、と分かる構成。でもこれ、日本の読者には、江戸川乱歩の『』(奇形島だっけ?)のことだよねぇ。作中には日本の名前もいくつか出てくるので、作者も同作を知っているかもしれない。