思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

火の鳥(2)


手塚治虫
☆☆☆☆
秋田書店漫画文庫

未来編。当時、ここまで壮大なスケールの本格SFが描かれていたのか、と驚いた。
文明の進歩が停滞し、コンピュータに隷属している未来人類、という設定だけならありきたりだが、それだけではない。
不定形だが、自在に形を変え、人類に幻視させることができるエイリアン・ムービーや、核戦争でほぼ滅亡した世界で、トラブルや、エゴから死んで行く人々。主人公マサトは、火の鳥によって、新たな人類の誕生を見届けるべく、永遠の命を与えられる。
マサトは人類が死に絶えた中、たった一人で、荒廃した地球、原始生命、ナメクジ生命の誕生と滅亡を目撃する。その間に、肉体すら失って、意識だけの存在となる。このへんは、小説ならともかく、連載マンガではなかなか表現しづらいところなのだが、自身の雑誌を持っていたからこそなしえたところだろう。このへんはステープルドン『スターメイカー』や、ナメクジ生命ではハル・クレメントとか、フォワードの『竜の卵』を連想させる。
また、火の鳥が案内する世界観では、素粒子(これには仏教的な山川草木悉有仏性的に強引に当てはめることもできなくはないが、ちょっと納得しかねる)から、地球自体、そしては宇宙全体までもが生命である、という宇宙生命の理論を説く。
最後は、火の鳥の中にある数々の生命の一つに取り込まれる。ただこれ、マサトに永遠の命を与える必要あったか? という多いなる矛盾、疑問が生じるのを、どうしても拭えないのだが。