思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

テネット

☆☆☆★

当然、「TENET」という回文。
要するに、「アイマックスカメラで撮影した大画面で、巻き戻し映像を観たらオモロくない?」という発想が全て。そこから、逆再生VS通常再生のバトルがあったら凄くない?
というアイデアが付随し、そこか、ストーリーなり、キャラ配置なりを考えたのだと思う。
序盤にある、文字通りの説明セリフで「考えるな、感じるんだ」という、ブルース・リーのパロディに逃げたセリフからも、「一発ネタなので、論理的整合性は破綻してます」とぶっちゃけてしまったも同然。
ほつれの最大のものが、ラストミッション。主人公たちはいつ、どこで逆行から巡行にもどったの?
本作では順→逆のタイムシフトは描かれるが、その逆は描かれない。実はここを見せてしまうと、タイムパラドックスの無限ループまたは改変前と後が同居する矛盾を避け得ないからカットしたのだろう。最大の問題は、どこでも時間反転できるわけでなく、固定されて回転ドアに行かなければならない点にある。
論理的にツッコミ出すとキリがないので一つだけ。ラストの「挟み撃ち作戦」も、ゼロ地点へ、巡行と逆行の両方から向かう、という哲学的、観念念的な意義よりも、クライマックスくらい、逆再生を写さないと本作のコンセプト的にダメでしょ? というだけで決まったことでしょ? 戦力を半分にするのも大問題だが、致命的な欠点は、そもそも赤青両部隊が、十分後にもう一度逆行すれば、2倍の戦力になるやん?! ということ。
クライマックスで言えば、モーション・コントロール・カメラで合成すれば済むはなしなのに、どうもノーランのこだわりで一発撮りしているらしく、頑張ってパントマイム的にムーンウォークを特訓したのだとおもうが、いかんせん、実際に突撃しているのと比べるとスピード感や迫力が明らかに不足している。このへんは、宇多丸師匠が「ノーランはアクション演出がヘタ」というのがよくわかったところ。
アクションで言えば、特に空港での(『ザ・ワン』的な?)肉弾戦は、巡行対逆行というある意味わけわからん奇妙な戦いを、頑張って表現していると思うが、ここは絶対に『マトリックス』的なキービジュアルになる印象的なアクションが必要な場面だろう。劇伴まで逆再生した感じなのは面白いが、それとて、刻むストリングスやパーカッションなら、そこまで超絶技巧でもない。
純粋に良いところも悪いところにも、小ネタは色々あるが、カネ的にも映像的にも、壮大な(駄作ではない)失敗作であろう(^^;)
例えるなら、予告ホームランしてからフルスイングで空振りした、みたいな。『エヴァンゲリオン』みたいな作品。
あ、手放しで良かったのは、ヒロインのエリザベス。ネットで調べた他の画像ではそれほど感じなかったので、監督が意図して演出しているのだろうが、その人間離れしたスレンダーさ。『スターウォーズ』のカミーノ族か? というくらい宇宙人的なスタイルに終始釘付けだった。