思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

人間に向いてない

黒澤いづみ
☆☆☆☆
講談社文庫

カフカの『変身』は、ある日突然イモムシ的なものに変身した主人公の一人称短編だが、本作は、そうなったものの周囲、主に家族の視点から描いた長編。
それも一人ではなく、日本各地で引きこもりやニートがそうなる、というもの。そんな奇病が流行った社会はどうなるかを描いた、完全にSFなのだが、視点が平凡ないち主婦なので、SFと言っても、初期の宮部みゆき的な、地に足のついた、読みやすいもの。ほとんど純文学と言ってもよく、ミステリー風味はさらさらない。
面白いのが、ひとりひとり、何に変身するかが全くことなること。主人公の息子は脚の代わりに人間指が生えた芋虫だが、歯だけが残った肉塊、人面犬、はては植物など、スタンドか?! というくらい多様なのが面白い。ちょっと『ガンツ』を思い出したり。イメージソースは『クトゥルフ』なのかもしれないけどね。
本作がよくできている点は、人間のコミュニケーションにテーマをおいているところ。その大切さを語り終えれば、事態の原因や解決が提示されなくても、小説を畳むことができるのだ。