思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

タイタン

野崎まど
☆☆☆☆

人類が必要とする全てのサービスを人工知能タイタンとそれに制御されるロボットがやってくれるようになった未来。人類は仕事をする必要がなくなった。まさに昭和に夢見られた未来像そのものである。
12あるタイタンの効率が下がってきている異常が発生。その原因を究明する「仕事」をする羽目になった主人公の奮闘を描く。
人工知能の問題を探る対話という意味では『ターミナル・エクスペリメント』を連想させる導入。最初は人類との対面コミュニケーション能力のないタイタンが、『アルペジオ』のようなヒトを作り出すまでの、過程は『誤解するカド』の原作者ならでは。
タイタンのバーチャル人格が成長するあたりは『アルジャーノンに花束を』だし、まさかの後半のロードムービー的展開は『ヴァーチャル・ガール』を男女逆にしたよう。そこに恋愛性がないのがポイントだが、恋愛性は意外な形で出現する。
仕事とは何か? という定義にも、ミステリー的というが、科学的な意味での仕事からもアプローチするのが面白い。そこから、本作内では触れられていない解答として、「仕事とは、熱(=エネルギー)を込めること」という解釈はどうだろう?
そもそも、人工知能とナノテクの発達という時代性の必然はあったにせよ、仕事という概念のない社会という設定にする必要があったのかは、そこまで効果的な設定とは思えなかった。『映画 アムリタ』のように、現代を舞台にして、ビジネス書みたいなテイストから次第に逸れて行く、というほうが作者の真骨頂を出せたんじゃないかなぁ……。

以下、ネタバレ

クライマックスは、ちょっと旧劇場版エヴァのラストっぽいというか、80年代らしい、ある種の変容、あるいは知性のステーションが上がるという、SFならではの醍醐味。