思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『コカイン ゼロゼロゼロ 世界を支配する凶悪な欲望』
ロベルト・サヴィアーノ著/関口英子&中島知子
☆☆☆☆★
河出書房新社

世界のコカインをめぐる実態を描いたノンフィクション。『ボーダーライン』でその暗黒世界を垣間見て、もっと知りたいと思った私にはぴったり。ただし、かなりハードなので、暗黒世界を知りたくない人はやめといた方がいいかも(^_^;)

「コカインほどの利益を確実に生み出せる銘柄は株式市場には存在しない。(略)ゼロが1000になるのだから。」

「カイビルとはグアテマラ軍の対ゲリラ精鋭部隊だ。(略)ゲリラ兵に奪われた19丁の銃を取り戻すため、40人のカイビル兵が村に侵入した。(略)男も女も子供も区別なく殺し、少女たちはレイプし、妊婦は銃床で殴ったうえ、腹の上に飛び跳ねて流産させた。子供は生きたまま井戸に投げ込まれるか、棍棒で殴り殺された。なかには生き埋めにされた子供もいた。赤ん坊は塀や樹木に叩きつけられて殺された。(略)村を離れる際には14歳と16歳の少女二人を殺さずに連れて帰り(略)その後三日にわたって二人を拘束し、繰り返し暴行した挙句、飽きると締め殺した。」
ランボー 最後の戦場』でのミャンマー軍なんて裸足で逃げ出す恐ろしさだ。

「1990年4月、ルヒージョ(コロンビア中北部の村)の教区司祭、ティベリオ・デ・ヘスス・フェルナンデス・マフラの指揮のもと、武力闘争に反対し、農村地域の生活水準向上を求める抗議デモをおこなっていた(略)ティベリオ司祭の遺体は、カウカ川の小さな入り江でばらばらになって発見される。しかも司祭は殺される前、目の前で自分の命がレイプされ殺害されるのを見るよう強要されていたことも明らかになった。そのあとで<サソリ>は、司祭の両手の指を切断し、それを本人に食べるよう命じた。次いで足の指も、姉妹には男性器まで食べさせた。」
(暗黒世界においては政府も警察も軍隊も区別
ない)麻薬マフィアの恐ろしさがわかる、本書中でも最も胸のむかつく事件である。平和的にデモをやった相手に対してこの所行。拷問も嫌だが、しかもそこまでやった上で殺されるのだ。(戦争や軍事侵略ではないが)森永卓郎を始めとする平和絶対主義者に読ませたい「現実」である。

当然、アメリカを先頭にした取締側も負けてはいない。
「<金作戦>は(略)徹底した極秘捜査が2年間にわたって続けられたのだ。2大陸にまたがって何人もの潜入捜査官が投入され、カリブ海のオフショア地域にあるアンギラには、罠としてマネーロンダリング用の銀行まで設立された。正式な手続きに則って開かれた本物の銀行で、格式高い建物に、複数の言語で対応もできる。」
並居るスパイ映画を凌ぐ大掛かりな仕掛けである。

南米の無秩序と比べると、まさに『ゴッドファーザー』のようなエレガントな(?)マフィアは、まさにイタリアというべきなのか?
「ロベルト・パンヌンツィ(略)人を殺すことはせず、仲間の生活を台無しにすることもない。敏腕の麻薬ブローカーらしく、資金とコカインだけを動かす。直接手に触れる必要さえない。」

「近年、また新たな形態が見られるようになった。液体コカインだ。(略)あらゆる飲み物に混ぜられるし、クリーム類やリキッド類にも溶かすことができる。」

「カプセル(略)をいくつもしまっておけるようになるために、果物と野菜を中心とした食事に切り替える。ドラッグ・ミュールは2時間かけてカプセルを1つずつ呑み込み、胃の中に納める。気分が悪くなるつらい作業だ。初心者が呑み込めるカプセルの数は30から40個というところだが、経験豊富なプロともなると、120個ぐらいまでOKだ。」
映画か再現VTRでは知っていたが、実際には特訓や訓練がいる。麻薬の運び屋も楽ではないのだ(^_^;)

エルサルバドル人の若者ギャング団(略)<マラス>(略)同ギャング団の構成員になるには、きわめてハードな試験にパスしなければならない。少年たちは13秒間、平手打ちや膝蹴りなど、殴る、蹴るの激しい暴行が容赦なく加え続けられるのを耐えるのだ。その際、入会希望者が意識を失うことも少なくない。入会希望者が女性の場合には集団でレイプされる。」
若者がここまでして入りたい、入らなければ行けないほど治安が悪いってことなのか・・・<(@_@;)>
「クリスチャン・ボヴェダは、この<マラス>についての長編ドキュメンタリーを撮ろうと考えた。(略)『狂った人生』の撮影は16カ月にもおよんだ。」

著者の前著を映画化した
「『死都ゴモラ』はマッテオ・ガッローネ監督により映画化され、カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリに輝いた。」
というのも観てみたい。