ヨアン・グリロ著/山本章代訳
☆☆☆★
現代企画室
アマゾンでは本書が原著の一部をカットしたことを糾弾しているレビューもあったが、後書きにあるように、大部すぎる原著の一部を省略するのは残念ながらよくあること。どういう内容だったのかは、ちょうど同じテーマの『コカイン ゼロゼロゼロ』と比べれば、大体の想像はつく。
確かに現地の情報や家族の歴史なんかは省いても構わないだろう。だが、やはり残虐だ、という理由で省略するのはいかがなものか。もちろん、この翻訳本にも結構殺人と死体の描写は出てくるので、『コカイン ゼロゼロゼロ』を読んでいなければ、十分刺激的だと思っただろう。ただし、世界的な『コカイン ゼロゼロゼロ』から、局地的な(と言ってもコロンビアとか中継地点としてアフリカも出てくる)メキシコに限定されたのに、無政府状態と言ってもいいくらいの惨状がぼかされているのは隔靴掻痒でもあるが・・・。
「ファルコンは(略)メキシコの麻薬組織のボスに成り上がっていた。(略)警察がファルコンを、殴打し、電気ショックで拷問したところ」
さらっと書いているが、ほとんど無法地帯の警察だけあって取り調べが乱暴!(^^;)
「アメリカから供与された軍装備(略)メキシコは37機のベル・ヘリコプター、22機の小型飛行機、1機の高性能ジェット飛行機を手に入れ」
これは『コカイン ゼロゼロゼロ』にも書いていたが。
「カルデロンの戦争は麻薬押収ですぐにすばらしい成果を挙げた。連邦警察はメキシコシティの豪邸を強制捜査し、覚醒剤の売上金と見られる2億700万ドルの現金を押収した。これは世界でも史上最高額の現金押収額だった。2007年10月、海軍は(略)コロンビアから来た(略)香港籍の貨物船を強制捜査した。(略)23・5トン以上にのぼるコカインが発見された。これは史上最大のコカイン押収量」
「メキシコはギャングから押収した6千丁近い銃(略)その約90パーセント(略)は米国内の銃器店で売られていたものだった」
メキシコの麻薬の行き先はほとんどがアメリカで、反対に麻薬戦争用の武器はアメリカから来ている互恵関係(?)となっている。
「コロンビアの警察は麻薬マフィアの逮捕率を以前よりずっと改善したが、このアンデスから来るコカインの量はたいして変わっていないのである。(略)コロンビアが達成したものは何だったのか?(略)「麻薬マフィアをたたくことで、国内の治安に対する彼らの脅威は大幅に低減した」
「メキシコ政府の人権擁護員会が(略)報告書を提出した。驚くべきことに半年の間に1万人が誘拐被害にあったというのだ。
この誘拐は警察や政治家だけでなく、金持ち、最悪なことに移民や一般市民までが対象なのだ。文字通り質より量っていうから恐ろしい。
「1997年のアメリカの麻薬取締担当局(略)は、メキシコのギャングは収入の6割をマリワナから得ていると結論を出している。」
これはコカイン等の麻薬が残りの4割、ということを示しているという事ではなく、マリワナ(昔はマリファナって書いてたと思うけど)が最大の収入源であることは間違いないと思うが、本書にあるように、石油や他の闇ビジネスもやっているので。