思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『豆の上で眠る』湊かなえ
☆☆☆★
新潮文庫

現在と回送の比率が3:7くらいで、しかもどちらも主人公の一人称。一行開け以外に体裁としての違いもなく、けっこうとっつきにくい。おまけに時制が飛ぶ時以外も一行開けがあるので。
雰囲気が近いのが、道尾秀介宮部みゆきあたりか。
本作の胆は、主人公が感じる日常と、かすかな違和感。そういうセンチメンタル、センシティブなテーマ、機微を描くためにこそ、この長編の分量が必要だったのだろう。トリックだけでいえば、せいぜい中編レベル。しかも、本格ミステリとしては、後出しの連続で、下手な連城三紀彦という感じ。
ラストで、次々と主人公を打ちのめす事実が明らかになるので気にならないようになっているが、本格ミステリとしての構造じたいは、決して誉められたものではない。
本作の評価、あるいは読み方は、あくまでも純文学としてなされるべきだろう。
解説で勧められているように、作者のミステリで読むべきは『リバース』か。