思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

豆腐小僧双六道中 ふりだし』京極夏彦
☆☆☆☆
角川文庫

出版社が違うのに同じ(立体)イラストだと紛らわしいなあ…(´Д`)
本作は京極堂も関口も榎木津もいない「京極堂」あるいは妖怪シリーズだ。同シリーズでは、無知な関口に京極が講釈し、榎木津が突っ込む、という役割が、本作では地の文の語り手や途中から常に行動を共にする達磨さんが担うことになっている。
裏表紙アオリにある通り、姑獲鳥から邪魅まで、いろいろな妖怪が登場し、それらについて、そもそも「妖怪」とは何ぞや、という定義から来歴、現代での科学的説明までしてくれる。まさしく妖怪入門には最適の一作。先に挙げた、地の文の語り口も講談調で、入りやすいので、こと小学生高学年や中学生にはベストかも。
語り口も、江戸落語が苦手な私でも大丈夫なので、全国的にも大丈夫だろう(^_^;)逆に、理屈っぽい説明的なところは枝雀落語のようでもある。
最終章を除けば、毎回ひとつの妖怪と豆腐小僧のやりとりなので、1クールの子供向けアニメを見ているような気軽さで、読め、会話も軽妙ながら、内容的には十分大人の鑑賞にも耐える絶妙のバランスである。

「お化け妖怪をあのように否定し続けていっても、(略)不安や恐怖という感情はどうやったって消せないのだからな。それを仮託する対象だけを消去して行けば、行き処がなくなるのは当然のことだ。怖がるモノが何もなくても、それでも怖いそれでも畏ろしいとなれば、正常な人格も健全な社会も、保つのが難しくなろう。隙間を埋めるようにして妙な宗教や危険な思想やらが衍り出したら、手のつけられぬことになる」

「闇に包まれますってェと、生き物は残る知覚(略)で、視覚の穴を埋めようとする訳でございますな。
ところが、これはそうそう上手くは参りません。
五感から視覚を外して常態を保つためには、それ相当の経験学習が必要なのでございます。(略)そこでーー最後の手段に出る訳でございますな。
記憶による補完ーーでございます。
ここでーー。
私ども人間は、現実と非現実の間を行き来してしまうのでございます。
補完すべく提出された情報が正しいものとは限らないのですな。」
ここで京極堂シリーズなら、憑き物落とし、というところだ。この他にも、面白いところはいっぱいあるのだが、京極堂シリーズのリバイバルでもあるし、是非とも実際に読んで目からウロコを落としてもらいたいので省略。