思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『皆勤の徒』酉島伝法
☆☆☆★
東京創元社

星を3つまでは勢いよくつけられるものの、4つめとなると考え込んでしまう。
一見、有機的サイバーパンクというか、小林泰三田中啓史が書きそうなグロSF。
読んでいれば、背後にあるハードSF設定が少しずつ明かされるものの、全貌は読者が推理するしかない。そういう意味では『新しい太陽の書』に近い。初読では、解説にあるようなところまで見抜くのはまず無理。ま、何回か読めばたどり着けそう、という点においては『新しい太陽の書』よりは親切だろうか。
カタカナではなく漢字、特に旧字体を使ったネーミングセンスは独特だが、カタカナよりも漢字の意味からイメージしやすいのは有り難くも、漢字に感謝するところ。
連作短編の形で、作品によってはルビ以外にカタカナが全くなかったりする。どうやら未来史の先になるに連れてカタカナがなくなって行く、というルールなのか?
作者の本業がイラストレーターでもあるので、カバーこそ加藤直之氏だが、本文挿絵は作者自らライトノベルばりに大量に描かれていて、この異形の世界をイメージする手助けになるが。が、グチャグチャで分かりづらいんだよなあ…。ま、世界じたいがグチャグチャな世界だから、妥当なイラストと言えるのだが…。
中では海に浮かぶ城から、消えた死体の謎を探す『泥海の浮き城』がミステリファンでもある私にはベストかなあ…。
少なくとも、最初の短編を読んだだけより、次々と読むほどに世界がイメージできて行き、ハマって行くのは間違いないだろう。
少なくともSF上級者向けなのは間違いない。『黒死館』とまでは言わないまでも、は新本格ミステリにおける『翼ある闇』みたいなものかな??『世界の中心で愛を叫んだけもの』よりは分かりやすいよ。

皆勤の徒 (創元日本SF叢書)皆勤の徒 (創元日本SF叢書)
酉島 伝法

東京創元社 2013-08-29