『ロジャー・アクロイドはなぜ殺される? 言語と運命の社会学』内田隆三
☆☆☆★
岩波書店
クリスティーのミステリ『アクロイド殺し』の解題なのだが、西欧の古典の引用と解説が過剰にあるなど、ミステリ解説書というより副題の通りの学術論文、という趣である。
西欧文学の常識も関心もない人はそのへんの論述が続くパートは読み飛ばしても問題ない。
「ポワロが「手記」を読むには、「手記」の内部から抜け出し、「手記」がそこに事物として置かれているであろう第一次の物語世界に入り込まねばならない。つまり、アクロイド事件が起こっているかもしれない空間に入り込み、「手記」を手に取り、「手記」の頁を開いてみる必要がある」
とあるがこの下り、何回も似たようなことを書いている(書き方がくどいから五百頁にもなるのだ!)割に全くの的外れである。
著者の構造を借りれば、一次世界のポワロが、二次世界として書かれた「手記」を一次世界のまま読んだ。そのことを一次世界のシェパードが二次世界の「手記」に再読(続けて)書いた、というだけに過ぎないではないか。
著者のいうメタ(ハイパー)移動が可能ならば、そんな特殊能力を持つポワロこそ最大の容疑者ではないか。
ちなみに、手記の信憑性、という点において、何も事件など起こっておらず、全てはシェパードによる創作小説という可能性も否定できない、というのは面白い視点だった。
そのへんを補強/保管したのが『迷路館の殺人』といえるだろう。
ちなみに、本書にはメタミステリのさらに拡大、進化した作品の宝庫である、いわゆる日本の新本格(折原一とか辻真先とか)について一切触れていない、という点でも、ミステリ解説書ではないことがわかる。
ロジャー・アクロイドはなぜ殺される? 言語と運命の社会学 内田 隆三 岩波書店 2013-07-31 |