思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『だまし世を生きる知恵』安斎育郎
☆☆★
新日本出版社

世の中の迷信・邪教を科学のメスで切る、という内容で、確かにそういう方面に関しては菊地先生と同じスタンスであり、異論はない。

ただ、自分でも認めているように専門範囲を広げすぎた弊害なのか、それともNHKに出るような人だからなのか、戦争に関するスタンスには明らかに中共寄りの歴史解釈なのが問題。
ひとことで言えば中共工作員だが、良く言えば、これだけ科学的・客観的に物事を捉えようとしている人ですら、戦後教育という先入観と、それにまつわる誤ったデータしか参照しなければ間違った結論しか出ない、というサンプルになっている。
102ページからの大東亜戦争解説がそれで、廬溝橋事件は中共の謀略、日中が全面戦争と言える戦争をしたかも疑問(少なくとも宣戦布告はどちらからもなされていない)。南京虐殺は米中のでっち上げ、ABCD包囲網を敷いて石油を締め上げたのは白人たちだ。(あれ、ポツダム宣言に中国は関わってたっけ?)
「日本の戦争もまた、ある種の謀略によって始まったのだ。」
というのは著者の意図とは逆の意味で正しい。すなわちコミンテルンおよびアングロサクソンの陰謀で戦争に引きずり込まれたのが大東亜戦争だから。
同じ文脈で、別の箇所に「相手に対する一方的な思い込みや先入観を克服する努力を重ねることが役立つでしょう。」「(米中に)言われたことを鵜呑みにすることなく、事実に即して徹底的に点検し、(東大歴史学という)権威や(マスコミの)評判に流されずにしっかりと判断すること」(()は引用者が追加)という著者の言葉をそっくりお返ししたい。
先に挙げた反証はどれも歴史研究に寄って明らかになった事実ばかりである。
あとがきの核抑止力に関する疑問は主観的事実に属することだから、著者が反核運動をやってても別にいいのだが、元イギリス海軍将校ロバート・グリーンなる人の7つの問題点のうち、「核兵器被害は(略)放射能の影響は世代を超えて長期化する。」というのは事実とはいいがたい。支那ウイグルでの核実験なんかは確かに世代を超えて影響を与えているかもしれないが、「唯一の被曝国」である広島・長崎には爆発そのものの被害以外に世代を超えた被害など、地域的にも生物学的にもない。