思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

3部作の完結編らしいのだが、これだけ読んでも十分楽しめる。
一時的な火星移住の間、留守を預かる人造人間・アートルーパーと機械人間の関係を描いた大作。
2段組700ページ近いが、全編がアートルーパーである彗慈の視点で語られるので分かりやすい。逆に、1段組400ページくらいで済みそうな内容なのに、なぜこんな長いのかが分からないのだが…。
いや、別に分からないではない。基本的にこの人はロジックの人、言葉使いなので、会話が弁証法的に進んで行く。おまけに結末を決めずに書いてるような感じなので、どんどんディテールや、人間とは?生命とは?などというテーマを論じているとどんどん長くなるのだ。
それでいて、読んでいるさいちゅうには「長い」と感じさせないところは、さすがに小説力があると思わずにはおれない。
終盤になってナノマシンによる都市再生など、SF的な仕掛けも出てきて盛り上がってくるが、最後のガジェットともいうべき彗慈理論=動物の人間変態の必然性がいまいち分からなかったのが残念。
確かに人間に作られたアートルーパーが、動物を数世代限定で人間化する、というアイデアは、テーマ的には面白いものの、それならそれだけで1作品書いたほうが良かったように思えた。それにそもそも、アートルーパーがカラスになるのはまだ良いとしても、動物が人間になるのは、進化を先行することになるのでムリなのでは?
まあそういうSF/科学的に部分では完全に納得はしなかったものの、先に挙げたテーマ的には十分に描ききったという意味では読み応え十分に思弁的SFといえる。


膚(はだえ)の下
膚(はだえ)の下神林 長平

早川書房 2004-04-23