思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

マルサの女

☆☆☆

てっきり主人公がマルサ(税務署)の職員かと思ったら、最初は市役所の税金担当らしい。税務署に配置換えになるのは、1時間ちかく経ってからだ(追記訂正 税務署から国税局。高橋洋一氏の動画が参考になった)。これ、前半はまるまるカットしてもいいんじゃないかなぁ……。エッチシーンとかもいらんし(´Д`)
まあ、山崎努との、子供を通じた敵ながら共感する部分とか、大河ドラマっぽい要素を入れたかったんだろうけど。それなりの効果を上げているのは確かだし。
後半は純粋にお仕事ものというか、税務署の仕事のやり方と、脱税と、バレるのを恐る人々の人間模様が面白いのだが。
ただし、先に書いたように、後半では山崎が、脱税の証拠をつかんで逮捕すべき敵としてあるのに、前半には子供と意気投合してスーパーマリオとかやってるし。
要するに、いち観客=納税者として、脱税=悪として、主人公視点に立つべきか、庶民として、小さな商店の店主がぼやいていたように、自分の店のものを食べたものまで税金を取るような(インボイスにも通じる邪悪な精神)に同情すべきなのか分からない。したがって、映画を見終えても、純粋にスカッとできないのだ。
もちろん、製作者も、娯楽映画として仕立てながらも、そのへんのグレーというか、混沌とした現実をそのまま見せたい、という意図があったのかもしれないけど。

地獄門 追記


乗馬で自分の能力を誇示したり、他人の女房を奪おうとしたり、酒の席で暴れたり、挙げ句の果てに、その女の親を人質にとって、当人を殺す手引きをさせるとか、武士って、やってることは、ヤクザと一緒だなぁ(^^;) と思った。最近ヤクザ関係の本を続けて読んでたこともあるけど。

太秦ライムライト

☆☆☆☆

時代劇好きなら「知らなきゃモグリ」と言える、「日本一の斬られ役」福本清三氏を主役にした(後にも先にもこれしかない)映画。
文字通りの日陰者、裏方に光を当てる、という意味でも、記念碑というか、日本映画界の歴史遺産である。
どうせならドキュメンタリーのほうが良かったと強く思うのだが、フィクションならではの情感というのも、まあ、悪くはない。
ただし、細部の演出は良いのだが、純粋にフィクションとして、ちょっとご都合主義的展開が気になる。
特に、クライマックスで、若手の今時プロデューサーが福本清三に肩入れする脚本的説得力が皆無なのは非常に気になった。あとは、物語上の転機である、ヒロインが引退した福本清三を呼び戻しにゆくシーン。幼少期の無邪気なチャンバラごっこを解雇するのは良いが、そこに至るまでのフリがほとんどない。『SPIRIT』ほど尺を取れないのは当然だが、最重要ポイントであるだけに、もうちょっと頑張って欲しかった。もしかして、この部分に、プロデューサーにまつわるカットバックとかが数分ぶんあったのをカットしたのかな??
『スローな武士にしてくれ』で大御所・里見浩太朗が出演したように、本作では松方弘樹とのチャンバラが最初と最後(クライマックス)に用意されている。松方弘樹が攻め/動なら、福本清三のほうは受け/静の殺陣。松方弘樹の殺陣は前へ踏み込むよりも、手前に次々と相手を切り込ませて、懐で切り返す、みたいな感じ。
本作では、撮影の裏側を見せているようで、最初と最後は、複数のカットをつないで、効果音まで付けた「ファイナル・カット」へとチェンジしている、というトリックがある。ライティングも違うので、分かる人が見れば一目瞭然なのだが。
ラストカットは、切られた福本清三の身体に桜の花びらが舞い落ちる、類例のない文字通り、潔くも美しく幕切れ。脇役ですらない、万年端役が、主役になった瞬間である。

ヴァンパイア 最期の聖戦

☆☆☆

ジョン・カーペンター監督。カーペンター節(劇伴)はあんまり感じなかったかな……。特殊メイクは「らしかった」けど。PG12は四肢が千切れたり血が出る描写のためか。全然グロくないけどね。
話としては、アメリカの田舎で、吸血鬼ハンターと吸血鬼たちが戦う、というだけの昼間にテレビでやってるような、B級映画。神父の立ち位置は、『エクソシスト』みたいに感じたが、単にこの手の映画をあまり数多く見ていないからそう感じるだけかもしれない。
吸血鬼のボスを「魔鬼」と訳していたが、原語では何と喋ってたのか、よく聞き取れなかったんだよなぁ……。
本作の吸血鬼は、十字架もニンニクも効かない、ハード系(?)。唯一、直射日光でのみ殺すことができる。おまけに、本作唯一の特筆すべき特徴とて、日光を浴びると、リンか何かの化学薬品を燃やたような、激しい炎を噴き出しながら灰になる、という演出がある。
時間経過はかなりテキトーで、急に夜になるのはいいとしても、吸血鬼のための儀式に主人公たちが阻止しに来て、映画の尺的に、5分くらいゴタゴタしているうちに朝になったのには(´Д`)という顔になった。

お茶漬けの味

☆☆☆

小津安二郎監督。夫に嘘をついて女友達たちで旅行に行こうと画策する。ウーマンリブ的なフェミニズム映画? と思わせつつ、実は分かってました、という、冴えない男と思わせて男にも、芯があった、というオチ。タイトルからしてネタバレというか、「どういう経路で着地するか」という、カウントダウン式の作品。
今回も助演女優として羽野晶紀似の人が登場している。
タイトルから明白なように、まごう事なきフード演出映画。物語上の頂点としての、夫婦でお茶漬けを食べるシーンに向けて、どう持って行くのか。少なくとも、観客にとっては、逆算/カウントダウン式のお話といえる。
制作当時の世相だったのか不明だが、中流家庭なのに住み込みの女中さんがいる、というのが時代を感じさせる。
本作は、四者四様の女性と、一人の男(主人公)の物語。と言っても四角関係ではなくて、一人の妻と、(女だけで泊まりで温泉旅行に行くほど仲の良い)女の友達。
リベラルな妻だが、夫の海外出張や、女友達との対話を通じて、保守的な良さを再確認する、という話。

ハウルの動く城

☆☆★

公開当時から観るつもりはなかったが、押井守が宮﨑ジブリ映画の中で唯一、部分的にせよ褒めていたので、「じゃあ観てやろう」というスタンス(^^;)
出てくる要素が、どれも前後の宮﨑映画で観たものばかり。もちろん、同じテーマを語り続ける映画監督というのもよくいるのだが、同じ見た目を繰り返す、というのはどうなんだろうなぁ……?
観客が見たいものを見せているだけ、というのは商品としては正しい供給姿勢ではあるのだが……。
また、いくら呪いをかけられたとは言っても、主に子供向け長編映画の主人公が老婆ってのもなぁ……。
あと、せっかく「動く城」をCGで作ってるのに、動きが『ナウシカ』の王蟲と同じ、密着マルチそのもの、ってのも、保守的にすぎると思った。

レクリエイターズ ネイキッド(2)

☆☆☆☆☆

いやー、久しぶりに面白かった。ラストはちょっと落涙しそうなくらい。クライマックスのツイストは、ちょっとずつ予想がついたのだけれど、そんなの関係ないくらい十分な内容。
この下巻は、アニメでもコミックスでも見たことない内容だったが、上巻と同じく、アニメとして動いているのがイメージできた。
ネタ的には『大乱闘スマッシュブラザーズ』『アベンジャーズ』『スーパーヒーロー大戦』、最も近いのは『ウォッチメン』。本作は、内容の完成度的にも、日本アニメ界からの『ウォッチメン』のアンサーと言っても過言ではない。
クライマックスに向けて官民総領戦でプロジェクトを進める、という展開も、『シン・ゴジラ』に顕著なように、燃える展開だ。
クライマックスでの「承認力」関連の視聴者のリアクションも、『ラジオの時間』のように、これもやっぱり盛り上がる要素。
クリエイターを目指す人のみならず、オタク文化の周辺に触れる人なら、誰しもイラストや落書き、自分だけのストーリーを夢想したことがあるはず。そんな人なら、誰もが読んで欲しい物語だ。