思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

ヤマタイカ(2)』星野之宣
☆☆☆★
潮出版社

日本中に「あさま山」という火山があり(富士山も例外ではない)、それが邪馬台国(東遷説)とも重なる、というのも興味深い。が、作中で引用元として出ているように、寺田寅彦の説でもあるので、作者独自の発想って何? というオリジナリティの疑問も湧いてくる。キャラクターとか、絵柄に魅力を感じないから、内容自体にしか関心が向かないのかな?
もちろん、後書きで諸星大二郎も触れているように、死んだイザナミの屍体のそばにいる変な生物の造形とかはデザイン的にも素晴らしいのだが。
オモイカネが溶かされて奈良の大仏になった、というのも面白い。
面白いのか、面白くないのか、どっちやねん?! という感じだが、本当、星野之宣という漫画家は、自分にとっても、好きなのかそうでもないのか、よく分からない作家なのだ。

『12モンキーズ
☆☆☆★

原案だか原作だかインスパイアされた、だかとクレジットされていたので、『ラ・ジュテ』のリメイクかと思っていたが、全然違う映画になっていた。
ちょっと前の作品だと思っていたが、もう20年近く前か・・・。完全にアナログで、80年代みたいな映像だった。
とはいえ、さすがはテリー・ギリアム。映像的には凝っていて、早送りさせない映像密度が溢れていた。当然時系列は逆だが、ギレルモ・デルトロみたいなビジュアル。特に、未来でのスチームパンクっぽい作り込みはさすが。
中ではブラッド・ピットの文字通りの精神病患者=キチガイ演技が素晴らしい。
精神科医であるヒロインが、自分を拳銃で脅して拉致したブルース・ウイルスならぬブルース・ウィリスに同情する理由がちょっと納得しかねる。中盤で、自分を置いて車を出た時に、そのまま走り去って警察に駆け込むのが普通でしょ?
2時間以上もかけるほどの内容とは思えないので、ネタ的にも、コンパクトにまとめたほうが、ラストのキレも含めて、数倍良かったんじゃないかなぁ。

以下、ネタバレ

未来から、過去の危機を止めるためやって来た、いや、来させられたのがブルース・ウィリス。タイムトラベルものであり、まんま『ターミネーター』(^_^;)
ただし、人類世界を破滅させたウイルスを開発した人間を殺すとか、研究をやめさせるのではなく、持ち帰って研究するという、みょうに人道的な目的なのが変わっている。何か勘違いした二匹目の土壌映画にありがちな「本質を分かってない人がパクった映画」の予感が(^_^;)
この手の映画によくある、どこかで見た映像が、いつどこで実際に起きるのか、が「ヒキ」なのだが、本作はちょっとひねったオチ。
ちょっと某映画を思わせる、現在子供だった主人公が、未来からタイムスリップしてきた大人の自分が死ぬ場面を目撃していたのでした、というものだ。

1995年 アメリ

クラッシャージョウ

☆☆☆★

有名すぎるほど有名な和製SFだが、原作は未読だし、この映画を観たのも初めて。
ストーリーは、子供向けでもないが、ハードな本格SPというほどでもない。まあ、まさにスペースオペラ、というところ。
演出として、シリアスな場面でもコメディ要素が全面に出てくるのが印象的。安彦神作画が全編に渡って堪能できるなかで、まさに金田伊功的な作画が目につくのだが、クレジットに氏の名前はなかった。金田的な作画が流行ってたのかな? あとは板野サーカスも分かった。
声優は聞いたことのない名前が多く、当時人気だったタレントなのかな?

閃光のハサウェイ(下)

富野由悠季
☆☆☆☆
角川スニーカー文庫

中巻でケネス大佐のところからハサウェイの所にいたギギは、下巻では再びケネスの元に。本作は、ハサウェイとケネスを巡る、ギギの三角関係の物語でもあるのだが、恋愛関係でも、アムロ・シャア・ララァのようなニュータイプ的な関係でもないところが特徴。言うなれば、戦争という運命に引き裂かれた男女の友人三人の物語。しかしながら、元からの友人が敵味方に引き裂かれた、という凡庸なものではなく、戦争の中で出会って、即友人になった敵と味方が、それぞれの立場ゆえに葛藤するという、ある種、高度な話なのだ。
現代にも通じる、『Z』や『逆襲のシャア』以上に、連邦という官僚組織や政治家の腐敗問題も、より本質的なところを抉っている。マフティーの規模が、デラーズ・フリートよりも小さく、さらにはぺズンの反乱よりも小規模なところを、主人公はどんなに小規模な戦力でも勝てるというアニメじゃない、リアルな結末を予感させるもの。
最終章ひとつ手前までも充分トラウマ級にハードな物語だが、最終章ではさらなる物語的などんでん返しがあったのを、すっかり忘れていた(^^;) 中高生の自分にはあまりにハードなので、記憶から消していたのかもしれない(^^;)

しかしこれ、『UC』以後で、『F 91』なんだよなぁ……(´Д`)(3作とも、内容を知っている人なら共感してくれるであろう慨嘆)

忘れているといえば、オデッセウスガンダムという名称こそ出てこない(これよりかなり後に後付けされたから?)が、ペーネロペーのフライトユニットは、下巻では外して戦闘してたのね……。

閃光のハサウェイ(中)

富野由悠季
☆☆☆★
角川スニーカー文庫

もちろんモビルスーツ戦もあるが、普通に近未来SFとしてよくできている、と感じた。
単なる外見、ディテールの描写だけなら、現在の他の作家の小説のほうが細部まで書かれているが、物語およびテーマを語るのに不要な街のディテールのようなものは、省かれているのだ。
そこに、人間および作者の語りたい人間・社会論が登場人物の心情を時に離れて語られる。その微妙なメタ認知視点が富野小説の特徴と言える。
であるから、発せられるセリフそのものは、大人であるハサウェイであっても、『逆襲のシャア』のシャア大佐とあまり変わらない、という印象になる。
また、ガンダム史上最大の曲者ヒロインであるギギも、富豪の老人の愛人であることに納得している人物、ということに大人になった今だからこそ、また違った深みを味わえる。
イスラム系のネーミングをもつテロ組織、という設定も、30年前とは思えない先見の明だ。広範な知識から未来を予見する、富野ガンダムの深みを垣間見た感じだ。

「戦後、ハサウェイは、軍事裁判にかけられたものの、敵のモビルスーツを撃墜した功績を評価されて、彼の行動は不問に付された。
 しかし、鬱病が続いていた」
『逆襲シャア』で鬱憤がたまっていたファンに対する、このへんの物語的なケアも抜かりない。単に場当たり的に作っているわけではないのだ。

『ウォンテッド』☆☆☆★

解説を見て録画予約したのだが、見始めてすぐ、「これ、映画館かテレビの予告編、見たことあるなぁ・・・」と思い出した。
リアリティを無視した、スタイリッシュなガン・アクション映画。カー・アクションでもあり、車で一回転するなんて序の口。横回転しながらジャンプしてターゲットの車の直上から射撃したり、電車に突っ込んだりとやりたいほうだい。
マトリックス』直系で、『リベリオン 叛逆者』や『シュテーム・アップ』『ブレイド』なんかをミックスしたみたい。年代的には前後するかもしれないが、『トランスフォーマー』も。実は派手で荒唐無稽アクションっぽさが、一番近いのは『シュテーム・アップ』だ。やってることは、『マトリックス』では電脳世界のことだから、として超絶アクションを現実世界でやってしまった、という感じ。
とにかく格好よければリアリティなんて糞食らえ、って感じで、魔法っぽい弾丸で、弾丸同士がぶつかるのは当然、数百メートル先から、途中いくつもの障害物をぶち抜いてターゲットの人物の急所を一撃必殺する。
トドメにゃ、弾丸がカーブするのだ。それも気合と、射つ時(前)に拳銃をサイドスローのように振りかぶると発射された弾丸も曲がる、という小学生レベルの発想!(^_^;) バカの極み!(半分は褒めてます)
前半では、理不尽なまでに容赦無く暗殺者としての特訓がある。死にかけても魔法の復活風呂に入ると復活する、というあたりもご都合主義で良い。
ラストでは自分をピックアップしたアンジェリーナ・ジョリーも含めて暗殺組織に反旗を翻して全滅させる、というあたりも意外、というにはどこかで見たような展開だが、徹頭徹尾スタイリッシュな映画だから、格好よければこれでいいのだ。『リベリオン』もそうだったしね。

ちなみに、吹き替えで観ると、特に最初に暗殺(組織)に巻き込まれて周章狼狽する主人公の泣き言を聞いてられなかったので、字幕で観るのがオススメ。

2008年 アメリ