もちろんモビルスーツ戦もあるが、普通に近未来SFとしてよくできている、と感じた。
単なる外見、ディテールの描写だけなら、現在の他の作家の小説のほうが細部まで書かれているが、物語およびテーマを語るのに不要な街のディテールのようなものは、省かれているのだ。
そこに、人間および作者の語りたい人間・社会論が登場人物の心情を時に離れて語られる。その微妙なメタ認知視点が富野小説の特徴と言える。
であるから、発せられるセリフそのものは、大人であるハサウェイであっても、『逆襲のシャア』のシャア大佐とあまり変わらない、という印象になる。
また、ガンダム史上最大の曲者ヒロインであるギギも、富豪の老人の愛人であることに納得している人物、ということに大人になった今だからこそ、また違った深みを味わえる。
イスラム系のネーミングをもつテロ組織、という設定も、30年前とは思えない先見の明だ。広範な知識から未来を予見する、富野ガンダムの深みを垣間見た感じだ。
「戦後、ハサウェイは、軍事裁判にかけられたものの、敵のモビルスーツを撃墜した功績を評価されて、彼の行動は不問に付された。
しかし、鬱病が続いていた」
『逆襲シャア』で鬱憤がたまっていたファンに対する、このへんの物語的なケアも抜かりない。単に場当たり的に作っているわけではないのだ。