思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

バスター・キートンの蒸気船


☆☆☆☆

別名『キートン船長』。本作は、クライマックス以外は、どうでもいい、退屈な映画だった。唯一、帽子屋で、おじさんが選んだ帽子を、キートンが気に入らないから、被せるそばから、おじさんが向こうを向いた隙に、横に置いて、自分の気に入った帽子に被り変えるのを延々と続けるのが、ドリフっぽくておもしろかったくらいか。
この映画、ラスト15分がとんでもない。ここだけでも見てほしい。
Stormすなわち竜巻が来て、町が大変なことになる。家の壁が次々に倒れ、一階の壁から上が吹っ飛ぶ。基本的にコメディなので、悲壮感は全くない。『トムとジェリー』的なアメコミ・アニメを実写でやってる感じ……なのだが、はたと気づいた。本作の制作は1920年代で、戦前どころか、昭和にもなっていない大正時代だ。いかにアメリカとはいえ、テレビもないから、テレビアニメなんて影も形もない。アニメ映画すら、あったかどうか……。逆に、本作のスラップスティック・コメディがオリジナルで、これ子供向けアニメができたときにデフォルメしたのか? 調べてないけど、もしそうなら、とんでもない歴史的傑作といえるかも。
さて、嵐に遭遇したキートンだが、お約束の家の壁が倒れてくるギャグも連発だし、暴風にむかって身体を傾けてジャンプするとか、は序の口。4階建て構造の蒸気船の上から屋根を飛んで降りてくるとか、女優さんに抱きつかれたままロープにぶら下がるとか、4階建ての船から川に頭から飛び込むとか、例よってサラッとやってるけど、とんでもない体技だ。
スペクタクルとしても、先述のように、家をバンバンバラバラに壊すし、クライマックスでは、川に流された家(これも、ミニチュアではなく実物大!)を、船を突っ込ませて砕いたりする。
ちなみに、どれも実物大のセットなのも凄いところで、特撮だとわかったのは、垂れた電線に感電すらフィルム描き込み合成と、家が屋根を下に斜めに倒れて来るカットが、フィルム(写真)を回転させたもの、の2点くらい。あとは、風で倒壊する二軒の、町の通りを俯瞰で捉えたショットが、もしかしたらミニチュアかもしれない、それくらいなのだ。