思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

さよならドビュッシー

中山七里
☆☆☆☆
宝島文庫

経歴的にややこしいが、作者のデビュー作といって間違いないであろう長編。
本作、というより本書の最大の不幸は、「このミス大賞」としてパッケージングされて売られていることだろう。
本作は、「ピアニストを目指す若き女学生を描く音楽小説」として、そういう小説を読みたい人向けに、まずは読まれるべきだ。
単にウィキペディア的ではない、人間としての作曲家のエピソード紹介が音楽的な深みを出しているし、ピアノ演奏の描写も実にダイナミックかつ、小説ならではの表現にあふれている。映画だけで原作は未読だが、同じようなテーマを描いた『蜜蜂と遠雷』の音楽描写もこんな感じでは? と思わせる。クライマックスの演奏など、これこそ映画で観たいと思わせる。
探偵役の設定も、親が名検察官で、司法試験もトップで受かったのに、研修が終わったら小さい頃からの夢であったピアニストの道に進んで、その演奏も素晴らしい、という人物である。まあ、現実にはあり得ない経歴だが、本作のためには、最適というか、必要条件をぜんぶぶち込んだキャラ(^^;) それでもご都合主義に感じない筆力の確かさよ。

以下、ネタバレ

本作の問題は、上述したように、本作がミステリーとしてカテゴライズされて宣伝されていることにある。おかげで、ミステリーとしとは最大の仕掛けとしと意図されている部分が、序盤から分かってしまうのだ。音楽小説としてよくできているだけに、一般読者が音楽小説として読んでいたら、とんでもないどんでん返しがあった、という読書体験こそ、本作との幸福な出会いだと思うのだが……(´Д`)