思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

メトロポリス


手塚治虫
☆☆☆
角川文庫

オタク的教養として、誰もが知っているべき、手塚治虫の名作『メトロポリス』。ようやく読んだ。
改めて見て、少なくとも平成以降のマンガ文法とは全く違うことに戸惑う。
少女マンガよりも、さらに一コマあたりの視線の滞在時間が長く、さらに解読に要する時間も長い。見開きの大ゴマはもちろんだが、特に併録されているケン一の世界冒険ものなんかでは、より一層戸惑った。
感想を書いているいま、ようやく気がついたが、一コマの滞在時間は、紙芝居に近いかもしれない。子供が月刊誌や菓子本を、何回も凝視し、読み込むというための結構なのかもしれない。擬音やオノマトペが少ない、あるいは小さいのも特徴。
これは歴史的資料だなら仕方ないのかもしれないが、『少年猿飛佐助』とか以上に画質が荒くて、底本の保存状態なのかそもそも印刷が良くなかったのか、どちらにしてもかなり見にくいのが残念。

以下ネタバレ

メトロポリス』☆☆☆★
人造細胞の完成から、ロボットのアイデンティティなど、予想以上にしっかりSFしているのに驚いた。メロン頭の量産型ロボットも、あまりに子供向けアニメ的に擬人化されているので、『キャシャーン』みたいに、ザク以前の量産型ロボットとは言いづらいものはある。
主人公が、人間の形を保てなくなるので、モデルとなった銅像に語りかけたり、最後は溶けてなくなっていくというラストが秀逸。藤子不二雄の解説にあるように、現在の目で見ても哀切な幕切れなのに、漫画といえば楽しいものでしかなかった時代にこれを読んだ子供たちの衝撃ばいかほどのものだったろう。

『ケンイチ少年』☆☆★
世界旅行に旅立ったとたん、海に落ちて溺れ死んだ主人公は、幽霊となり、ヒゲオヤジの元へ、色んな動物の身体に入り込みながら、蘇る方法を探す。菓子本またはアメコミ的な、いちエピソードが10ページ以内の、テンポよい、逆にいえば中身はあまりない、その場が楽しければいいタイプよ作品。
始まりは、映画撮影の舞台裏を見開き大ゴマで描いて、作者自ら試写会に招待する、的な始まりだったのに、それが後には生きていないのが難点か。よく見れば、冒頭の大ゴマにある撮影場面は、後に出てくるシーンになってはいるので、ちゃんと構想されていたことは伺えるが。ただし、加筆修正魔の手塚治虫だけに、後で単行本収録時に追加または変更した可能性も否定できないが。