思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

怪獣保護協会


ジョン・スコルジー
☆☆☆★
早川書房

欧米の「怪獣」小説も増えてきて、喜ばしい限りというべきか、日本から半世紀以上遅れての怪獣ブームというべきか……。中でも、本流のSF作家ジョン・スコルジーによる怪獣SFである。アオリでは『老人と宇宙』の作者、と書いてあるが、文章のノリは完全に『レッド・スーツ』つまりはパロディ小説寄りである。
主人公は、ウーバー・イーツと似たような会社の幹部だが、冒頭で武漢ウィルス騒動の影響でクビになる。手元が寂しい中、旧友に誘われたのが、「海外での大型生物の保護」の仕事だ。タイトルになっているので、読んでいる誰もが「大型生物ってのは怪獣のことでしょ」と分かるので、作中人物は騙されるが、それが判明するまではネタ振りというか、「ノリツッコミ」だと分かっていても、「早く種明かしせい!」と言いたくなるところ。まあ、本作は妥当な長さか。
本作独自というか、SF作家ならではの設定といえば、怪獣の「生態システム」だろう。『パシフィック・リム』でも寄生虫が出てきたが、本作ではそれを押し進め、怪獣の体内まで含めた、人間における腸内細菌や、ミトコンドリアをさらに発展させたようなシステムを作り上げて、しかもそれがメインプロットに絡んで来るのが見どころ。
ただ、SF作家だからこそなのか、物語的なダイナミズムはなんか控えめで、起こっていることは大変なのに、『二重螺旋の悪魔』のように、または『大霊界』(じやなくて、何だったっけ? 倉阪鬼一郎の怪獣小説)あと一歩盛り上がらないのが残念。
小説でしか書けなさそうな怪獣の異形さとか、ビームを吐く理由などは、怪獣ファンなら読んでおけ、というべきものだが。日本のSF小説で一番テイストが近いのは『MM9』だろう。

以下ネタバレ

巨大な怪獣が「二乗三乗の法則」に逆らうように存在できるのは、体内に原子炉があるから。その理由は敢えてハードSF的には説明しつくさない。また、原子炉が出てきたら、当然核爆発の危機がクライマックスとなる。テロリスト(それが主人公をクビにした会社の社長というのが面白いところ)が異世界から怪獣を連れてきて爆発させようとする、というあたりは平成以降の『ゴジラ』っぽいかも。カナダの国立公園で核爆発があっても中国の仕業にする、というあたりも本作のパロディ精神を表している。ウーバーとか、イーロン・マスクの名前も実名で出てくるし、実在のSF映画もたくさん出てくる。