思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

掲載禁止


長江俊和
☆☆☆☆
新潮文庫

短編集。全体として、ラストのどんでん返しから逆算した、ある意味でシャマラン的なミステリーばかり。
折原一が好きな人なら、読みたくなるような作品、とだけ言っておこう。

以下は、ネタバレ含みます。


『原罪SHOW』☆☆☆☆
スナップフィルムもの、といえば、ホラーを含むミステリーにおける1ジャンルと言っても過言ではない。本作はそのバリエーションで、「さまざまな「死の瞬間」を目撃できるツアー」を潜入取材するテレビマンの一人称視点。作家によっては「この作中ではホントかも?」とドキドキする設定だが、この作者については、何らなのフェイクがある、という仕掛けは予想できるので、ある意味では、初読時から再読時のような手がかり探しの視点から読むことになる。
「死の現場ツアー」なら、真っ先に疑う、主催者イコール殺人者説は、作中でも真っ先に否定されるが……。
序盤でチラッと触れられるライバル局の存在がうまく使われている。

『マンションサイコ』☆☆☆★
ミステリファンなら誰でも知っていて、なおかつ自分でも書いてみたくなる設定なのだろうか、バリエーションが多いのが『屋根裏の散歩者』だ。
時系列を大きくジャンプさせるのは、『原罪SHOW』と同じとも言えるが、老婆という文字を目にした時の「え?」というインパクトは強烈。ただし、そのインパクトありきで、その動機については小説的な説得力があるとは思えないけど(^^;)

『杜の囚人』☆☆☆
これまた、ビデオを使ったもの。記憶をなくした犯罪者の家族を演じて、責任能力を証明し、罪に服させようとする。これもまあ、ありがちな設定ではある。パターンにも限りがあるので、どうしてもある程度数を読んでいると、それに比例して驚きも減じてしまうなぁ……。同じ場面を視点を変えて描くので、東野圭吾『超殺人事件』的に言えば、コスパの良いというか、セコイなぁ……という感じも(^^;)

『斯くして、完全犯罪は遂行された』☆☆☆☆
友人に奪われた恋人と、15年ぶりによりを戻したが、何か様子がおかしい……。私的には小説として一番好きな(よくできているかどうかは別にして)作品。
というのも、テーマ的にも、構成的にも、トリック、プロット的にも、山田風太郎っぽいテイストがあるからだ。
さらにネタバレ気味にふみこんて書くと、主人公と元恋人との二人の関係と思われたものが、ラストにパタパタと奥の障子が開くように、隠れていた人物が現れる、という構成のことだ。
もっと言えば、山風マニアなら誰でも思い浮かべる某長編ミステリとトリックが同じ。

『掲載禁止』☆☆☆☆
ミステリー界も、映画関係者に負けず劣らず、左翼が多い。本作は、いちおう悪役扱いはされているが、右翼的主張がちゃんと描かれてる、という点においてだけでも好感が持てた。作中に出てくる、世直し会「品格会」のやっていることは、実に痛快でさえある。やっていることは、左右関係なく、社会道徳的にまっとうなので、やりすぎ感、悪役に仕立てるために右翼にしているのは、ちょっと剛腹ではあるが(^^;)
テレビの密着取材、というところからして、だが、オチも、本作だけ書き下ろしということもあるのか、本作に収録されている短編群の集大成というか、全部取り込んだ感じ。