Twitterなどを使って、自殺願望のある人を巧みに自室に誘い込み、2か月ほどのあいだに9人も殺害した白石。あんまり知らなかったが、たしかに期間と人数からすると、かなり「ヤバい」やつである。
乱暴に言えば、ちょっと大阪の三菱銀行強盗と似ていて、水商売の勧誘をしていた経験を活かして、おもに30以下、女子高生ら女性と接触し、酒と薬を飲ませて、首を絞めて失神状態でのレイプに快感を覚える異常殺人者。その後で、被害女性を飼うわけでもなく(失神とは、ほぼ死んだ状態なのかもしれないが、通報を恐れて殺した、とも自供している)、かならず殺害、死体を解体しているのだが、その後は、埼玉愛犬家連続殺人ほど徹底してはいない。
「部屋で遺体を解体しながら、そのアパートで生活をする。日常の中に遺体がある。そんな状況下で、白石は睡眠も食事もとっていた。」
1人ごとに死体を「消去」した埼玉事件とは違い、こんな異常な状況だから、早晩破綻がくる(実際に二ヶ月・九人で逮捕された)のは必定。
白石とコンタクトをとりながら、接触には至らず、殺害をまぬがれた女性に取材した、その半生も凄まじい。何回か(同じ場面ではなく、全く別の事件)レイプされ、最悪なのが、公園で首吊り自殺に失敗下後。
「地面に横たわる直美。薬が効いていたのか、体がうまく動かない。すると、そこに見知らぬ男性が通りかかり、あろうことか、その男性にレイプされた。」
善意のかけらもないというか、華奢で気の弱そうな、線の細い美人なのなもしれない。世の中捨てたもんだと思うのも無理はない。
本作は、マスコミ報道と、裁判傍聴、死刑囚本人やターゲットになりかけた直美へのインタビューから書かれており、白石の本性とかは映画やドラマ、はたまた『野獣の刺青』のようには犯人像はすっきりしない。現実の凶悪事件とは、過去の事件や犯人が射殺されたりした事件でなくても、誰もが理解できるような動機はわからないものかもしれない。
むしろ、犯人が最もらしい動機や背景を語ったらならば、それは犯人にも周囲にも都合の良いフィクションだ、と思うべきなのかも。