思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『連続殺人鬼カエル男』中山七里
☆☆☆☆★
宝島文庫

ネタバレなしで感想を書くのが難しいが、ヘタウマ的なカバーと、脱力するタイトルに惑わされずに読むべし、とは言える。
一見すると、新本格にありがちなだけのミステリに思えるが、長編数作ぶんの多様な要素をぶちこんだサービス精神だけでなく、社会派的な小説的テーマもどすんと来るようになっている。
グロが苦手な人には死体描写がつらいかもしれないが、中盤以降の展開へ向けて必要なプロセスと言える(私的には百パーセント首肯できないが)。


以下、ネタバレ。
下に行くに従ってメイントリック(サプライズ)に言及します。


本作の特徴が、グロ、およびバイオレンス描写だ。
特に主人公への追い込みは尋常ではなく、『ジョジョ』第5部か? というくらいのズタボロっぷり。普通なら3回死んでる(^_^;)ラストのカエル男ならぬミイラ男っぷりは、映画版で確認したくなる……が、まあ、そこはタレント事務所的に原作に忠実にはしてないだろうなぁ……。
唯一、「ちょっとこの展開はリアリティに欠ける」と序盤から不満だったのが、社会の過剰な怯えかた。猟奇的な連続殺人になる前、最初の死体吊るし事件からそうなのは、いささか不自然。
中盤にある暴動に繋げるための布石だと分かるのだが、それ自体にも、中盤を盛り上げるためにしか思えない。映画ならともかく、小説としては、この警察署襲撃シーンは丸々カットしても何ら問題ないのだ。いちおう、昭和に大阪西成であった史実を引き合いに出してフォロー(言い訳的な説明)はしているのだが……。前に読んだ映画脚本的に言えば、主人公が反転攻勢に出るために、婦警が少女を守るところを見せる必要があったのかもしれないが、市民による警察署襲撃という非現実な読者が「引く」というデメリットに引き合うものだったかどうかは疑問。
本格ミステリとしては、「犯人」が逮捕されてからが白眉である。「犯人」の青年が、大の大人以上の力がある、というのは少々御都合主義に思えるが。これは主人公を肉体的に追い込む為の設定とともに、今回の犯人の条件でもあるのだが……。
先に「」つきで犯人と書いたのは、彼を操っていた真犯人がいるから。女が犯人だということは、国産某ミステリでの鮮やかな前例があるので、読む前から疑っていたが、それでも、聖女から『ジョジョ』2部のエシディシに操られたスージーQくらいのドグサレっぷりの落差が凄い。特に聖女版での、ピアノ療法での主人公の癒されるのを読んで、読者まで癒された感を抱いていた身としては、衝撃である。暗闇でのバトルは、スパイものか、というくらいこれまた執拗に主人公を追い込む。
本作が凄いのは、ここからさらに2つのツイストがあること。それについても、しっかりと序盤から出ていた刑法39条や、精神病治療に沿った犯罪計画になっていること。
それだけで済んでも十分な満腹感だが、本作にはラスト一行のサプライズまで用意されている。それも、単なる「連続殺人は終わらない」だけに終わらないのが巧みなのだ。ある意味では、円環が閉じるとも取れるダブルミーニング
これで、中盤の警察署襲撃がなく、女に主人公が殺され、真の真犯人に対するのは主人公のメンターとも言える上司なら、文句なく☆☆☆☆☆だったのに……。