思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『彼女のため生まれた』浦賀和宏
☆☆☆☆★

どうやってシリーズ化するのかと思ったが、まさかの「フリーライター桑野銀次郎」シリーズである。
浜松の実家で彼の母親が殺され、父親も負傷した。銀次郎が向かって、明らかになったのは、犯人が高校の同級生だということ。何故、彼は15年も経ってから同級生の家を襲撃したのか?
彼が残した遺書によって過去の強姦による自殺という冤罪を被った銀次郎は、自らの濡れ衣を晴らすために犯人の動機、事件の真相を探る内に、意外な真相にたどり着く……。
と書くと凡庸に過ぎるのだが、本作の真面目は、主人公の調査によって、事件の様相が二重三重に趣きを変えるところにある。裏表紙アオリのように「ドンデン返し」と言えなくもないが、清涼院流水流に言えば「ダミーの真実」が四層構造くらいになっている、と言えるもの。
序盤こそ、初期の浦賀和宏作品のようなセカイ系っぽさを感じるものの、それすら作者のレッドヘリングとすら思える。

「最初から最後まで、これは○の一方的な俺の○への嫉妬が起こした事件だった。」

今回までのシリーズ2作を読むと、このシリーズは、主人公が理由なくひたすらひどい目に遭うという他に、ミステリとして○○○○殺人ものという趣向があるのかも。
また、ミステリの構造としても、1作めの『彼女の血が溶けてゆく』よりもパワーアップしていることも書き忘れてはならないポイント。