スティーヴン・キング著/矢野浩三郎ほか訳
☆☆☆★
文春文庫
解説の、キング入門に最適、というのを信じて読んでみた。なにせバカ長い小説ばかりなので、短編集はとっつきやすい。
概観として、細部/ディテールの描写や、比喩表現のうまさはよく分かった。宮部みゆきのような登場人物全てに心理描写を入れるのでなく、主人公以外はあくまでもセリフを含めた外面描写に徹していながら、キング世界に引き込むセンスだ。
『ほら、虎がいる』☆☆
少し、不思議系のホラー。授業中に一人でトイレに行く、という設定がユニークだが、夜の学校の変奏曲でしかない、とも言えるのでは? 虎、というのも
『ジョウント』☆☆☆☆
ベスターの『虎よ!虎よ!』で瞬間移動のネーミングとして造語されたジョウント。本作は、瞬間移動が実用化された未来、父親が息子に、その発明時のエピソードを語る、時系列を交互に出すことでエンタメ性を出すあたりが小賢しいことろ(^^;) 普通に開発経緯を描くだけで、SFファンは充分楽しめるが、それだと非SFファンは楽しめないとでも思ったのか……。それはともかく、瞬間移動の条件というか、払う犠牲、というのが面白い。アシモフあたりが書いていてもおかしくない秀作。
『ノーナ』☆☆☆★
絶世の美女に魅入られ、道を踏み外して行く、というのは純文学に限らず、むしろラノベでこそ履いて捨てるほどある設定。その過程にこそ作家性が出るのだが……。本作では、それほどの美女なのに、なぜ他の人がわんさか寄ってこないのか? が問題ではあるが、過去にトラウマのある主人公にだけそう見えた、という可能性を残してあるところがうまい。
唯一、気になったのが、「後の裁判で……」という箇所。まるで刑務所内で手記を書いている体に見えるが、ラストでは、主人公は死ぬようにしか読めないのだ。逆に、ここまで主人公が追い込まれて、逮捕されて裁判にかけられて……というのでは興ざめ。
『カインの末裔』☆☆
アメリカではよくある、銃乱射事件を、犯罪者視点で描いたもの。ただこれ、現在進行形というか、ある意味客観的に書かれているので、肝心の人間が描かれていない為に動機が分からないのが欲求不満。
『霧』☆☆☆★
この中編を元に映画『ミスト』が作られた。どちらに合わせるにせよ、なぜ、書籍タイトルと題名を揃えなかったのかという出版社の意向には首を傾げるが……。
基本的な内容は(当たり前といえば当たり前だが)映画と同じ。印象としては、こちらの主人公は独善的で共感できなかった。
全く違うのは、映画では大いに物議を醸したラスト。この原作では、文字通り、五里霧中というか、先がみえなことを主旨にした幕引き。