思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『神器 軍艦「橿原」殺人事件』
☆☆

危惧はしていたが、やはりミステリーとしても、SFとしてもなってない作品。幻想文学というか、純文学。埴谷『死霊』(これもちゃんと読むべきかもなぁ……)がいちばん近いかも。
ミステリーとしては、最後に新興宗教にすべて押し付けるという、もっともやってはいけないパターンである。また、メタミスとしても、自分が従軍以前に書いた探偵小説の設定が浸食するのを主眼にするなら、冒頭または各章にでもそれを載せるべき。
ただし、奥泉流としては、混沌、混乱が極に達したところで、橿原を沈めて終わり、というのがお手軽な(投げやりであるが、そもそも作者に、ミステリー的な謎を論理的に解決するつもりがはなからないのだ)解決だったのだろう。本作があくまで純文学である所以だ。
終盤に伸してくる死者たちの声は、『英霊の声』を嫌でも連想させるし、それこそが本作のテーマなのだが、直接的な描写はないものの、本作が東京裁判史観をベースにしたものである(左翼史観)ことが、右翼史観である『英霊の声』とは大きく異なる。まあ、スタンス的には、田原総一朗な真ん中やや左、というところか。
『事件』とかの人の小説が好きな人には良いかもしれないが、戦記もの好き、SF好き、ミステリー好き、歴史好きには時間のムダ。