思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『狐火の家』
☆☆☆☆

女弁護士・純子と犯罪者であることが公然の秘密である防犯グッズ店長・榎木のシリーズ第二弾。中短編集。

『狐火の家』☆☆☆★
横溝の『本陣殺人事件』ならぬ日本家屋での密室殺人事件…といいたいが、肝心の家のディテールがよくわからないのでなんとも言えない。戦後の農家のイメージが適当か。今回もワトソン役の純子が様々な外れ推理(い言っても、凡庸な量産作家なら十二分に長編になるレベル)を開陳するのが本格ファンの読みどころ。おまけにアパートでのもうひとつの密室殺人も。そちらのほうは○○が凶器という、バカミスすれすれ。

『黒い牙』☆☆☆☆
蜘蛛を飼うためだけのためのアパートで起こった密室殺人事件。蜘蛛フェチミステリで、毒蜘蛛による死亡事故がほとんどないとか、輸入規制がないとか、取材したことをてんこ盛りに入れ込んでくれているお得な短編。純子が当初、犬か猫だと勘違いしたことによって窮地に立たされる展開というのが面白い。真相一つ前の偽の真相もグロテスクだが、真相はもっとエグい。

『盤端の迷宮』☆☆☆☆
将棋をテーマにしたミステリーはちょくちょくあるが、本作は貴志版『将棋殺人事件』ともいうべき力作。これなどはゆうに長編一本ぶん以上のネタが詰め込まれている。テクノロジーとの関わりにおいてチェス界の動向が将棋のそれに比べて十年は先を行っている、というのも面白い。

『犬のみぞ知る』☆☆☆
ドタバタコメディということもあってか、まさしく短編という、他の3作品に比べて短い。純子が何の根拠/推理/証拠もなくトリックが分かったと宣言し、それから榎木を呼びつけるあたりがおかしい。真相もこれまた脱力もので、ショート・ショートのネタと言っていい。しかしこんな短編なのにそれまでにいくつものダミー推理を投入しているのが作者の凄いところ。

「たとえば、シベリアン・ハスキーやアラスカン・マラミュートなどはいい例で、外見は狼のように厳ついですが、もともと人口密度の低いところにいた犬ですから、人を見ると尻尾を降って喜ぶんです。泥棒だつて大歓迎です。」