いわゆる義経=ジンギスカン説に挑む歴史サスペンス。ミステリと言いたいところだが、伏線がないこと、リアルタイムの旅行記スタイルの記述ゆえに、一人称の主人公に語られる情報が省略され、それが真相を知る手がかりになっていること、という理由で、どんでん返し的な真相の衝撃はない。
本作のオリジナリティは、義経がモンゴルに渡った理由が、頼朝への○○のため、ということ。現モンゴル建国の革命の英雄スフバートルの最期に関すること。前者への物証は、明らかにフィクションだと分かるが、後者の状況証拠は十分あり得るもの。
歴史推理としては及第点だが、『ギリシアから来たソフィア』的な、中国からモンゴルへの旅行記として、丸々一冊ぶんのボリュームで、これだけで☆☆☆☆くらいに面白さ。
ジンギスカン殺人事件 (角川文庫) 中津 文彦 KADOKAWA / 角川書店 2013-02-25 |