思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『綺想宮殺人事件』読了

芦辺拓
東京創元社
☆☆☆☆
あの『黒死館殺人事件』へのオマージュ。全編、膨大な衒学趣味(ペダンティズム)に彩られた怪作である。
もちろん本作の場合、戦前の作品を模倣しているわけなので当然な部分もあるのだが、作者の文体ゆえか、なかなか21世紀の物語だとイメージできず、困った。(作中、インターネットを使う場面がある)
大量の無駄情報が溢れている割に、本家『黒死館殺人事件』に比べれば遥かに読みやすい−−もしくは衒学部分は流し読みできる。もちろん、「葉を隠すには森の中」という事もあるので油断はできないのだが…。
本作が「最後の探偵小説」と煽られているゆえんは、最後の最後にある。ただ、この趣向は蛇足というか、この作中でなければ…というものでもない気もする。タイプ的には、清涼院流水というには酷にしても、『暗黒館の殺人』(あ、これも『黒死館殺人事件』へのオマージュだ)に通じるものがあるかも。
全体の趣向はもちろん、特に最後のこれがあるがゆえに、本作は『虚無への供物』に通じる、作者の嫌いな“アンチ・ミステリ"の佳作に仕上がっていると思う。