思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『涙香迷宮』竹本健治
☆☆☆★

年間ベストに選ばれたことはおいとくとして…。
作者のゲーム殺人事件3部作に続く、『連珠殺人事件』ともいうべき本格ミステリ
さらにミステリー史上、欠くべからざる黒岩涙香が小説的テーマ。彼にまつわるペダンティズム、とりわけいろは歌に関しては、過剰なほどの労力がつぎ込まれている。もちろん、それが本作の暗号ミステリーとしての真髄なのだが、ペダンティズムとしてのいろいろな作品の例示だけでなく、作者オリジナルの作品も膨大に含まれている。
その白眉がメインの暗号となっているいろは四十八プラスアルファのいろは歌だ。偏執的な言葉遊びは鯨統一郎『喜劇ひく悲喜劇』にも通じる。
そして、その暗号解読合宿のためにほとんど忘れかけていた、冒頭の殺人事件の謎解きで、連珠殺人事件としての凄みが出てくる。ただし、これが不完全なのがくせ者で、これはそもそも不可能に近い偉業だから、ここまで期待だけでも良しとすべきなのか?歴史ミステリみたいに、作者オリジナルの新説に都合の良い証拠を捏造(創作)することができないから。
シンプルに「こんないろは歌のパズルを考えてみました」とパズル雑誌か、和歌の雑誌に発表すれば、五十ページもいらないのだろうが……。