思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『宇宙探偵ノーグレイ』田中啓文
☆☆☆☆
河出文庫

私立探偵ノーグレイが、銀河連邦内のいろいろな惑星で依頼を解決する短編集。何が凄いって、私が夢想していたネタを(少し毛色は違うが)実現しているのだ。

『怪獣惑星キンゴジ』☆☆☆★
怪獣ランドに飼われている怪獣王が首を切断された。怪獣に脳移植して犯人を探る。トリックとしては王道なだけに、犯人当てとしても低難易度。挨拶代わりというところか。オチ(というかサゲ?)じたいは強烈。


『天国惑星パライゾ』☆☆☆★
最初は連作短編集かと思ったが、そうでもないらしい。十戒を守らざるをえない装置など、宗教的、哲学的には怪しいが、SFミステリの設定として割りきろう。反対に、遠目には天使そっくりだが、複眼に牙かあるなどの毒が小林泰三っぽくもあって楽しい。構造的なメタっぽさは、実はシリーズを通した共通点でもある。

『輪廻惑星テンショウ』☆☆☆☆
きっかり十万人しかいない惑星、そして土着生物という設定が石原藤夫的にまとまった佳作。SFならではのワンダーに溢れている。

『芝居惑星エンゲッキ』☆☆☆☆
コンピュータ補助によって作られた脚本を1日おきに全員が演じる、というアホな設定。超がつくほどのバカミス設定なのに、映画的なオチになるところが凄い。

猿の惑星チキュウ』☆☆☆
これ、映画のネタバレだけど、有名無実だからいいかな……(^_^;)
時間SFだが、一方通行のタイムトラベルなのが、作者らしくいやらしい設定だ。それ以外には、ひねりや独自性は全くなく、本シリーズのエピローグ的な意味くらいしかない。

『地獄八景』田中啓文
☆☆☆★
河出文庫

『地獄八景探偵戯』☆☆☆★
辻真先『デッド・ディテクティブ』の系譜となる、SFミステリ。後出しが多く、本格とは言い難いが、まあ、落語のサゲとして楽しめばいいんじゃないかな。

『地獄八景人情戯』☆☆★
会話だけで構成された、完全なSR(枝雀師匠の作ったSF/ショート落語)である。

『地獄八景男女戯』☆☆☆★
二組の男女の心中もの。それがどう繋がるのか……?オチは、この作者だけに、こっち方面だと薄々気がついたが、やっぱり(^_^;)ただ、オチの直前に、文字通り二組の人生が交錯するのをごくさらっと描いているのが、映画的で、爽やかさすら感じた。

『地獄八景笑芸戯』☆☆☆★
大阪人である作者の地が発揮された地獄の吉本新喜劇。これまた落語的なバカ話として頭を空っぽにして読むべし。

『地獄八景白球戯』☆☆☆★
本短編シリーズにおいて地獄の責め苦は、仕事として設定され、いわゆるアフターファイブには自由もある。その時間を使って野球をするのが本作。閻魔の裁きの再審をかけて、おちこぼれ地獄チームと、極楽のエリートチームが戦う。練習時の妨害を乗り越えての特訓が後々活きてくるあたり、スポーツものの王道と言える。

『地獄八景兵士戯』☆☆★
総火演の直前に、とある戦車が戦国時代ならぬ地獄にスリップするのが本作。本作では他の短編にはない、地獄で死んだら無になる、という死んでも復活して永劫の責め苦
を受ける、という地獄の存在意義を覆す矛盾点とか、いろいろ問題あり。

『地獄八景獣人戯』☆☆★
水戸黄門』をパロ・グロ全開で描いたもの。弥七最強説(^_^;)

『地獄八景科学戯』☆☆★
中学生が考えた「地獄なんてないよ。何故なら……」というだけの話。哲学的根拠は浅いが、まあ筋は通っているかな。仏教の基礎知識がある人間が読むにはつらいかな。

アトミック・ブロンド
☆☆☆★

先に観た『カンサス・シティの爆弾娘』ではないが、一昔前なら『金髪爆弾娘』という邦題になったかも(^_^;)
巷の評判から、もっと『マトリックス』的なアクションかと予想していたが、『SPL』だな。要するに形だけでも様式美でもなく、リアルな「殺すか殺されるか、命がけの世界」を描いているのだ。派手なシーンと言えば、中盤の、ホースを使った脱出シーンくらい。
あとは、自分が有利になるなら、使えるものは何でも使う、というスタイル。拳銃を逆手に持ってグリップでどついたり、ワインのコルク抜きで刺したり。ナイフで刺してもなかなか死なない(のもリアル?)。背中に刺さったペティナイフに(身体が固いのと、刺されて筋肉が強張っているから?)手が届かないから抜けない、というのも斬新。
ストーリーは、何か押井守映画みたいだ。スパイものということで、騙して騙されてで、二重スパイや裏切りの連続。ラストでもデカイ口を叩いたりしているが、主人公はあまり能動的なことはやってないような……。何かやっている最中に敵に襲われるのを撃退するだけで、最後には「実は分かってました」的に後出しじゃいけんされても……。このへんは『ミッション・インポッシブル』的かも。
肉弾戦(格闘/アクションというより、肉弾戦というのが相応しい)よりも、実はサブであるガンアクションのほうが見所で、私的にはそちらがメインである『ジョン・ウィック』よりも好み。あちらがあくまでもしっかり構えることを重視しているのに対し、本作では、ほとんど構える(動きが止まる)ことなく、直線的に相手を仕留めるアクションの流れがシャープなのだ。
本作では『ジョン・ウィック』以上に洗練されたのが撮影&色彩設計(ポスプロによる色調製?)の美しさ。単一の色彩で統一するのではなく、シーンごとに鮮やかでありつつ、ネオン調の色彩で作品を統一するのは、結構レベルの高いセンスが必要。
意外にも、シャーリーズ・セロンに惚れることもなく、ゴツくて化粧の濃いガイジン、というイメージでしかなかった。むしろ。ヌードを2回ほどチラ見せしているほか、異常に頑張ってはいるのだが……。
アクションを含め、ビジュアル的には標準以上なのに、もうひとつノレなかったのは、劇伴がインストではなく、80年代の歌もの(洋楽なので、聴いたことないものばかり)だけと言っても過言ではない音楽設計だったからかもしれない要するに、洋楽を知らない人にとっては、ぶつ切れで、映画としての統一感がないのだ。せめて『ミッション・インポッシブル』みたいにノリノリのテーマ曲があれば2割増し(☆☆☆☆)だったのに……。

『ちびねこトムの大冒険』
☆☆☆★

80年代末に作られ、紆余曲折の末に92年だか6年だかにようやく完成したものの、公開する機会がなく、最近になってようやく有志で地方公民館レベルで観られるようになった幻のアニメ。
設定からして『ガンバの冒険』を連想せざるをえないが、ネコや鳥であることは劇中で触れられるにも関わらず、人間は登場しない。宮崎駿版『名探偵ホームズ』方式なのだ。これが何のためかと言うと、人形劇的な、子供たちへのとっつきやすさの他に、本作は実質的に異世界ものなので、人間だと比較してリアリティレベルが上がるので異世界の設定を作り込む物量が飛躍的に増えてしまうから。それともイメージは『70日間世界一周』?どちらにせよ、いかにも東映動画などの古きよきアニメの香りだ。
おまけに、名前まで何故か外人のそれなので、実はリアリティや親近感は少な目。
まず、導入として、アニメート全般のレベルはかなり頑張っている。画面比率がパノラマサイズではなく3:4であることから見ても、テレビスペシャルとして企画されたのではないだろうか。劇場版にしては背景の描き込みが少ないし。
中盤からは実質的に異世界ものになる。ご親切にも世界地図が出てくるが、我々の地球とは似て非なるもの。この地球を救え、という親近感が出ないじゃないか。『ガンバ』みたいに、人間には期待できないから、動物たちが頑張る、というなら分かるが。
地球各地に散らばったのに、まるで町内であるかのように連絡手段もない中では邂逅するのも子供的なご都合主義。映画単発にしては急展開すぎる流れで、本来は『母を訪ねて三千里』的なテレビシリーズ向け設定じゃなかったのかなぁ。
高速移動手段も、ファンタジーの定番たる飛行船や鳥ではなく、スコップやパチンコや帽子に乗って飛ぶ、というシュールさ(^_^;)もちろん(?)ワープもある。
ラスボスも、壁画で触れられていただけで、何か唐突に出てきた感は否めない上に、何がしたいのかよく分からない出崎統調キャラ。
そもそも、「地球のかけら」をすぐに付けたら地球各地に弾かれて、再び付けたら万事解決、っていうのは大人は納得できないし、だからこそ子供にも不誠実では?異常に長い「つながれつながれ……」という祈りで押し通してはいるが……。
声優陣はやたら豪華で、藤田淑子野沢雅子高山みなみ、ヒロインには佐野量子。佐野さんは『雲のように風のように』でも主役の声を当てていたが、プロ声優ではないにしては、それなりに聞ける人の一人だった。
私的には、メインとなる川井さんの音楽。子供向けの、さわやかな導入から、ちょっとした冒険、という雰囲気で実にマッチしずぎて、言われないと分からないだろう。もちろん、川井ファンとして聴けば、川井サウンドが滲み出ているのを感じることは出来るが……。エンディング歌も川井さんによるもので、文句なし。
とりあえず、手放しで誉められる点を挙げるなら、各アニメーターの仕事と、オープニング(画面と曲)くらいかなぁ……。

『世にも奇妙な君物語』朝井リョウ
☆☆☆★
講談社

電車広告で「どえらいオチや」という(関西限定?)広告をみて、「そんな大したことないやろ」と騙されないぞと誓いつつ、やっぱり確かめてやろうと読んでしまうヴァタシ……(^_^;)
オチを強調するから、てっきり長編だと思ったら、短編集だった。
小説としての軽快さや、どんでん返しの決まりかたは、綾辻や霧舎などの新本格を思わせる。その読みやすさとどんでん返しの比率は、確かに(本格ミステリではない)ミステリー初心者には最適。

『シェアハウスさない』☆☆☆☆
どうしても「シェアハウスさせない」と読んでしまうのだが、どうでもよくて、『誰にでもできる殺人』や折原一の緒作品にみるように、アパートものの現代版。ルポライターが、とあるシェアハウスの面々の生活を取材しようとする話。
本当は中編にして、メンバーの生活を少しずつ開陳していくほうがホラー的にも、小説的にも効果的で、もったいない。後に長編化したりしないかな?終盤になって不自然さ、予兆、暗転という展開が秀逸。
ただし、そもそもどうやってこのメンバーが集まったのかは疑問(どんでん返しのための設定だからそこまで考えてない?)。

リア充裁判』☆☆
石持浅海や、深水黎一郎のようなSFディストピアもの。コミュニケーションこそ至上、という現代の風潮を皮肉ったもの。2段階のオチ(どんでん返し)があるが、どちらも気の効いたものでも、予想を越えるものでもない。政治的にはあり得ない設定なので、ホラーの一種とも言える。

『立て!金次郎』☆☆☆★
幼稚園のモンスター・ペアレントを皮肉ったもの(考えたら、社会問題をネタにしたものばかりだ)。熱血教師もの(幼稚園の先生だが)と見せかけた、文字通りの舞台裏がある、というオチ。ただ、これもあまりにも救いもリアリティもないどんでん返しなので、『大唖見警部の事件簿ふたたび』みたいに、短編集のエピローグ的に付け足したほうが良かったんしゃないかなぁ。

『13.5文字しか集中して読めな』☆☆★
新聞を読まず、ネットニュースのヘッドラインしか読まない風潮……い言われているものをネタにしたもの。
帯にある『世にも奇妙な物語』っぽさが顕著なのが本作。ホラー短編らしいオチ。日本人が好きそうなオチとも言える。子供が幼稚園とかではなく小学生というのは無理があるかな……。

『脇役バトルロワイヤル』☆☆☆★
綾辻行人『どんどん橋、落ちた』収録作品を思わせる、メタミステリというかメタドラマ的な話。実在の俳優をパロった脇役俳優たちのオーディションを隠し撮りして、脇役あるある的な言動を取ったら脱落(突然開いた落とし穴に落ちる、というリアリティのない設定もメタミス的)というのが面白い。深水黎一郎あたりも書きそう(^_^;)ただし、オチは意外かつ伏線もあるが、最後にしか出てこない主役なんてあり得ないですから!残念!(懐かしのギター侍で閉めてみました)

『ノー・イグジット』
☆☆☆

原題は『クラッシュ・ザ・スカル』。タイトルは、ラストに出て、その意味も分かるようになっているが、気の効いたタイトルとは思えないなぁ。
状況としては『ドント・ブリーズ』と同じで、泥棒に入った家が……というもの。
序盤は、とにかく主人公たちがバカなのでイライラさせられる。『愚行録』みたいなノリを狙ってるのかもしれないが……。
また、カット終わりに毎回少しズームするのも気持ち悪い。
泥棒のために潜入した家が変な家で、閉じ込められる。主人公たちは脱出できるのか?という話。
基本的にはテレビ映画っぽい安っぽさなのだが、薄暗い室内なので、そこまで気にならない。
基本的にはバカにして観ていたら、途中でどんでん返しがあり、少し見直した。ただ、ラストのオチは、もう少しなんとかならんかったものか……。

以下、ネタバレ

乗り物パニック映画の10則じゃないけど、ラストに家から出ない、というのは構成としてあり得ないでしょ?
泥棒のバカなメンバーが頭部を切断されても目が閉じないことの理由も、観客を怖がらせる以外の理由が説明されないのも問題。もしかして医学生理学的にはあり得るのか?
頭をカチ割るシーンが何回も出てくるならともかく、ラストにだけ出てくるんだもんなぁ( ´Д`)
本作最大のトリックは、拉致・監禁されていたと思われた女性が、実はサイコ野郎の妻だった、というものだが、それだとふだんどうしてるんだ?おかしくないか?まるで主人公たちが泥棒に入るのを分かっていたかのようだが、そんな描写も、彼らを罠にかける理由もない。
保安官(低予算ゆえか、貫禄がないんだよねえ)をあっさり射って、躊躇なく止めをさす殺すあたりが楽しい。
今気づいたが、これがラストに主人公たちが犯人に止めをさす(頭蓋骨をクラッシュする)のをためらうのと対照をなしているのか?

『カンサス・シティの爆弾娘』
☆☆☆

ローラーボールというイベント、時代と女性の社会進出など、現在の日本人にとっては、町山さんの解説がないと、全然分からないものばかりだった。
というより、そんなのを加味してまで、発掘する必要のある映画かなぁ……?
町山さんのようなリベラリストや、ウーマンリブの歴史に興味がある人には観るべき作品なのかもしれないが……。
あとは、スケートのショートトラックと、アメフトとプロレスを合わせたような、ローラーボールというものが、興味深い。プロレスをスポーツと言いづらいのと同様、スポーツとも言い難い。
ただし、映画としてはスポーツものの王道である。
ちなみに、爆弾娘というのは、「ボンバーズの女性メンバーという意味」(なんちゅう邦題や)