思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『魔邸』三津田信三
☆☆★
角川書店

かぼちゃ男、異界への彷徨、幽霊屋敷、いわくつきの森など、怖がらせるガジェットこそいろいろ出てくるが、あまり怖くない。
各要素だけ見れば、短編のネタなのだが、それらを組み合わせて長編に仕立てている。ただし、全部の要素が有機的に結びついているかというと、そうでもないのが難点。ガジェットの数だけみれば〈如きもの〉シリーズに比肩するのだが、そこまで綿密に構成する手間を省いたのかもしれない。
実は少し不条理の混じった、ホラー・ミステリーという分類になるだろう。
ホラーとしての描写も、いくつもあるが、どれも長すぎて、くどい。作者のホラーにはもっと怖いのがいくつもあるので、それに比べれば、本作はホラー初心者向け。
帯には「二度読み必至」とあるが、懇切丁寧に犯人が解説してくれるので、確認するまでもない。

以下、ネタバレ

ホラーと見せかけて、実は下世話な事情のミステリーというのが本作の仕掛け。そういう意味で、帯にミステリー的な仕掛けがあることを書いてしまうのはネタバレではないか。純粋なホラーと思って読むからこそラストのどんでん返し(叔父の正体)に衝撃を受けるのに。

ジョジョリオン(21)』荒木飛呂彦
☆☆☆

謎の多い展開というより、無理矢理謎にしてるような気がするなぁ……。
構図も奇妙というより、背景とパースが狂って(ずれて)るし。
新人賞に応募してきたら、絶対にケチョンケチョンに貶されると思うぞで。
絵にしか興味がないのかも。顔の描きかたが、ロートレックっぽい。ある意味、バンドデシネを目指している?

『貞子3D2』
☆★

タイトルがわけわからんことになってるなぁ……。『2』となっているが、実質的に前後編の後編と言える。主人公は滝本見織(前作から継続だっけ? 前作は石原さとみだっけ? 滝本見織主演のホラーは別の作品だったっけ?全然覚えてないわ)。驚愕や、恐れおののくというより、目を剥く演技が印象的。主人公に感情移入できないので、怖さも共感できないんだよなぁ。
とにかく画面が異常に暗い。真っ昼間なのに、どこもかしこもブラインドを下ろし、海の中か?というくらい青い光が外から漏れて来るだけ。そのせいか、主人公は何回も白昼夢に悩まされる。前作でも書いたが、不穏な不安で怖がらせられないもんだから、いきなり怪物が襲ってくる、ショッキングな映像をねじ込まないとホラーとして成立しない……ってダメダメやん( ´Д`)試しに幻視シーンを抜いてごらん?何も怖くないから。
また、終盤で主人公を助けに来た石原さとみの兄が、手を伸ばしたカットにまでショッキングな効果音をつけるなど、客をバカにした演出。
川井さんの音楽は、そんな音響設計ゆえ、叙情的にしんみりさせるシーンのみ(もしくは、それ以外には印象に残らないくらい控え目)。
前作にもあったような気もするが、いきなり井戸が出現するとか、ギャグ以外の何物でもないでしょ?スタンド能力?( ´Д`)
前作よりましなところがあるとすれば、ただの長髪モンスターと化した貞子がほとんど登場しないこと。というより、本筋とほとんど関係ない。貞子が登場しなくても成立する話なのだ。
どんな話かと言えば、少女が実母に会いたい、という話。これ、長期刑の囚人が、服役前に出産した娘の話としても成立するよね?( ´Д`)
本作はそれと、自らも母親の自殺に対して自責の念を抱える滝本見織の悪夢を、貞子の幻視と絡めて作ってあり、続編でありつつスピンオフ的な、どっちつかずの印象なのだ。
(無理矢理?)良かった点を挙げるなら、貞子の霊力で( ´Д`)拳銃自殺する刑事の頭の反対側に血しぶきが飛ぶカットくらいか(^_^;)


以下、ネタバレ

唯一面白かったのは、ようやくラストに登場した石原さとみ。貞子が憑依している微妙な設定ゆえか、刑事に射殺されるところが意外で楽しかった。
超ロングヘアを床に垂らして眠るシチュエーションは、聖母的に美化したいのか、悪霊に取りつかれた邪悪なものなのか、どっちにしたいんだ?と言いたくなる。完成した映像は明らかに前者なので、自分の身を呈して、悪霊たる貞子を封じた、と描きたいのかもしれないが、それにしては貞子は普通に暴れてるやん( ´Д`)オチとしては、結局貞子の遺伝子は娘の身体を依代にして発現、拡散しちゃってる訳だし。石原さとみ何しに来たんだ、という感じ。まあ、本作中では唯一、ロングヘアを不気味なものではなく、美しいものとして描いている、貴重なシーンでもあるので、ロングヘアフェチとしては複雑な心境ではあるが……。

『空母いぶき(12)』かわぐちかいじ
☆☆☆☆
小学館

戦闘機群による決戦。同時に、陸自では人質奪還の突入作戦が始まりつつあり、さらに政治的にも外交と内政の問題が描かれる。
最新式ということもあるが、戦闘機の場合は、脱出したパラシュートがしっかり敵味方ともに描かれており、撃沈即死亡、という潜水艦とは違うことが描き分けられている。
常に国際世論や人名を気にせざるをえない我が国と対照的に、現場も外交官も強気な中国との対比が興味深い。
いよいよ盛り上がってきたのだが、巻末の次巻予告によれば、次巻で完結との意外な展開。作戦が成功するのがネタバレしてもうてるやん?( ´Д`)
ただし、本作によって、日本人に、戦争ではない、地域紛争や武力衝突という戦闘のイメージを極めて具体的に与えた意義は大きい。(なんかもうこの巻で終わったような感想だが(^_^;))

『サバイバル・ファミリー』
☆☆☆★

突然に電化製品が使用不能になる、という現象に遭遇した東京のある家族が、サバイバルする姿を描く。
パニックもの、ディザスターもののバリエーションだが、ある意味で『首都消失』をミクロの視点で描いたような雰囲気もある。
ルックとしては『アイアムアヒーロー』みたいなのだが、撮影監督とかが同じだったりする??(調べてないけど) 序盤の、家の周辺に拡大してゆく非日常、という流れは全く同じ。
設定や展開は、SF短編でよくありがちなもの。
最初に挙げたように、災害に遭った時にどうするか、というシミュレーションものとしての効能もある。小学校で勉学のために上映したらいいんじゃないかな〜。
結局は昭和の暮らしがベスト、という結論にならざるをえない、というか、想像以上に電化製品がなくても何の問題もない(ように描いていた)のが興味深かった。

以下、ネタバレ

災害をエンタメ的に楽しむ藤原紀香時任三郎たち家族はやりすぎだが、おそらくもう何日も経つと馬脚を露わすであろうことが示唆されている(のではあるまいか)。その後に登場する本当の生活力がある農家との対比、という意味でも、そうでなければらないない。が、ラストで写真が送られてくるので、伏線としてはいいが、そういうテーマ的には、それってどうなのかなぁ…。
山口に至って蒸気機関車が登場する、というのはナイスな設定だが、それで鹿児島まで行く、というのは無理がある。定期的に運行してノウハウがある山口とは勝手が違って、九州では整備できないし、水や石炭も補給できないだろう。何より、山口周辺でピストンというか、シャトル運行するのが妥当だろう。
宇多丸師匠も行っていたが、原発の問題とか、全世界的な問題としてしまうと、いろいろポリティカル・フィクション的な問題が頻出する。どうせなら、それこそ首都消失的な、局地的な問題に絞ったほうがよかったのでは? ジュヴナイル短編小説とかなら、その辺は気にならないのであろうが。

レクリエイターズ(5)』原作:広江礼威/漫画:加瀬大輝
☆☆☆★
小学館サンデーGXコミックス

中盤の山場を作るためだけに(視聴者に飽きられないために)設定されたアクションシーンという感じ。
軍服の姫の能力が明らかになったり、設定改変が成功したり、ラストへの伏線もあるのだが……。ちょっとあざとさのほうが残ったかな……。
画面にいない人の名前がどんどん出てくるので、いちいち登場人物一覧を見ないと分からなかった(^_^;)
巻末に、ボーナストラック的に、原作者のマンガがあるが、誰が誰か分かりづらい。ギャグだから崩しているのと、文字通りのキャラ原案がこうだったのか、アニメがこうだったのか……。調べりゃ分かるんだろうけど(^_^;)アリステリアがバカすぎる、っていうのは激しく同意。そうしないと盛り上がらないから、バカな設定にしているのが、こんな設定の作品なこともあって、どうしても透けて見えちゃうんだよなぁ……。

『AV女優のお仕事場』溜池ゴロー
☆☆☆☆
ベスト新書

ベテランAV監督による、業界エッセイ。
ある種、大手かつベテランだからかもしれないが、一般的なイメージとはずいぶん異なるのが意外だった。本書中でも触れられているが、『AV女優』に出ているような、ある意味で病んでいるような人物はほとんど出てこない。
大小の事務所に所属し、事務所は所属タレントを商品として管理する。すぐに消える人も多いという点では、アイドルやモデルの業界と大差ないのかもしれない。
仕事内容が、ステージに立つか、ベッドかの違いだけで。実際に、撮影を終えれば、それ以上にスタッフに乱暴されたりはしないのだ。そもそも、現場としてレンタルしているスタジオ料金を超過する制作費の余裕もないとか。それこそ、AVである、面接に来たらそのまま乱暴される、というシチュエーションじたいがAVによるフィクション(演技)という事に気がつかなければいけない。テレビのバラエティやドキュメントが、「やらせ」だと言うなら、AVこそその最たるものかもしれない。
それは、女優が「感じ」たり、淫乱な表情を浮かべるのも同じこと。あくまでもそう演じるからこそ、女優と呼ばれるのかもしれない。

「年間一万本以上のAVが新作としてリリースされている」
「2000人の女優の約8割が、なんらかの理由で1年も保たずにAVを引退し、翌年には同じ数だけの女優が補充される」
「元祖・潮吹き女優といわれたのは、1988年にデビューした中野美紗(仮名)(略)ところが、2000年をすぎたある時期を境に、突然このおかしな現象がAV女優のスタンダードとなった。」
これは興味深い事実である。もしかしたら、フェラチオなんかもエロ雑誌が出る戦後になるまでは一般的には知られていなかったかも……?
「アマチュアに近い男優にまで検査させるからこそ、性病のリスクに関してAV業界は一般社会よりも安全」
これも、イメージとは違う。零細やアングラ業者はまた違う、ということかな?(どんな業者にも犯罪的な人間はいるものだし)
「現場はいつも愉快なスタッフたちや美しい女性の笑い声にあふれ、鬱になった人間など、この20年でひとりもみたことがない」
ってことはあの映画で描かれてたことは、ほぼ正確だったってことか……。