思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

田中角栄の呪い

小室直樹
☆☆☆☆

似たような本をいくつも書いているので、てっきり『日本いまだ近代国家にあらず』の改題前の本だとばかり思っていたが、どうも読んだことないっぽい。田中角栄のいわゆるロッキード事件の渦中に、いろんなところに書きまくって(警鐘乱打して)いたのかもしれない。なにせ、私が生まれた年だからね。

「デモクラシーには金がいる。しかも、今の政治システムでは、それは、政治献金とか、なんらかの形の収賄によらなければ得られない。だから、大政党のトップが収賄するのは当然だ。」

「20世紀においても、各種デモクラシーのエッセンスをあつめてつくったはずのワイマール共和国がナチスを生み出す母体となったではないか。
 理念だけにはしりすぎると、どうしてもこうなる。
 理屈やたてまえはいいかげんにして、慣行を重視せよ。
 これを忘れると、デモクラシーはたちまち暴走して、あっというまに、なんらかの形の独裁制に転落してしまう。」

言論の自由のないデモクラシーなどありえない。」

「デモクラシーとは、本来、少人数の国家ではじめてできることだと思念されていた。(略)巨大な近代国家においては、かならずデモクラシーからの遠心力が働く。フランス革命がナポレオンを生み、二月革命ナポレオン三世第二帝政に転化し(略)ワイマール共和国がナチズムの温床となった」

「57年正月、私が角栄と対談したとき、彼は重大な機密を告白した。日米安全保障条約には、実はもう1つ、重大な秘密協定が付随していた。すなわち、もし日本がこの条約を受け入れるならば、アメリカは無料で日本で産業技術を提供する。つまり、特許料を支払わなくても、いくつかの重要な産業技術の使用を許可することがある」

「世界の映画館の76パーセントがソ連に集中している。(略)ソ連当局は、映画の製作に異常な努力をそそぎこむことになる。(略)映画を、イデオロギーの宣伝手段として使うと、いつでもこうなる。
 ナチスの宣伝大臣ゲッペルスも(略)ひとり個室で映画をたのしむときには、ハリウッドの映画しか見なかったとか」

「日中間の懸案のほとんどが日本側に有利に解決されて、晴れて日中復交となった。なんと周恩来は、賠償すら全額放棄してしまったのであった。
 北方領土問題でも、今でこそ日本人は(略)金切り声をあげているが、終戦以来、国連でもどこでも、これを問題にした者など誰もいはしなかった。これを初めて主張し、モスクワで羆より恐ろしいソ連指導者と堂々とわたりあったのも田中角栄。」