『中東戦争全史』山崎雅弘
☆☆☆☆★
学研M文庫
2001年に出た本だが、中東の70年に渡る紛争を知るにはほぼ問題ない。
似たような名前が多いのがややこしいのと、地図をもっと載せてほしい(中東戦争のみなので、各章ごとに載せて!)という不満(私に知識がないからだが)を除けば、アウトラインを知るには格好の本。
欲を言えば、文章的にはもうちょっと洗練されていた方がいいかな(´д`)
「「六日間戦争」(略)当時のエジプト軍には、400輌以上のT34-85中戦車と200輌を超えるT55中戦車、約50輌のスターリン3型戦車など、計900輌近いソ連製戦車を保有していたが、そのうちの6〜700輌がイスラエル軍によって撃破または捕獲された。」
「69年には(略)パレスチナ勢力を支援するアラブ人ゲリラの兵力規模は一挙に拡大した。
しかし、パレスチナ解放という大義名分を掲げるこれらのゲリラ組織は、拠点を置くアラブ諸国の領土を活動拠点として「間借り」するだけに留まらなかった。彼らは、パレスチナ人の民衆的な人気を背景に、資金集めのために勝手に通行税を徴収するなど、我が物顔で当該国の主権を脅かすような行動を取り始めた」
第4次中東戦争
「ソ連政府の目論見は、イスラエルとエジプトが均衡状態を保ちつつ、両軍とも相手国への本格的な戦争を仕掛けられない状態を作り出すことにあった。」
「もし、中東へのソ連軍の派遣を認めてしまったなら、アラブ諸国は完全なソ連の支配下に入ることになり、アメリカと関係の深いイスラエルは、遠からずソ連軍の強大な武力によって壊滅させられるであろう。そうなると、中東でのアメリカの拠点は失われ、世界戦略上での勢力バランスは一気にソ連側優位へと傾いてしまうことになる。(略)討議の結果、全世界に駐留するアメリカ軍部隊の警戒態勢を「デフコン3」と呼ばれる準戦時レベルに上昇させることが決定され、世界各地に配備された戦略爆撃機はいつでもソ連に対する核攻撃を開始できる態勢に入った。」
これ、ある意味ではキューバ危機に勝るとも劣らない世界大戦の危機じゃないか。
「第二次中東戦争(スエズ動乱)という対エジプト共同戦線の成立によって、英仏両国とイスラエルの関係が深まっていた1956年、イスラエルはフランスから戦車や戦闘機だけでなく、24メガワット規模の原子炉を購入する」
「第4次中東戦争の後半期(略)イスラエル側は核弾頭を搭載した地対地ミサイルを格納庫から出し、アメリカの偵察衛星にはっきりと写るような形で展開させた。」
イスラエルの外交駆け引き凄え…。
「1979年(略)エジプトとイスラエルはホワイトハウスで平和条約に調印(略)握手を、憎悪の眼差しで凝視する人々(略)PLOをはじめとする、パレスチナのアラブ人たちである。
彼らにとっては、れっきとしたアラブ国家エジプトの大統領であるサダトが、パレスチナ問題の解決を脇に置いたまま、第4次中東戦争の停戦後すぐにイスラエルとの和平交渉を開始したことは、アラブ人の同胞に対する裏切り以外の何者でもなかった。」
「イスラム教シーア派住民の多いレバノン南部地域で勢力を盛り返したPLOは、ここに大規模な対イスラエル・テロの出撃基地を次々と解説し、レバノン政府の手の届かない治外法権地域を作り上げてしまった」
「日本赤軍(略)の狙いは、日本赤軍の名を世界に知らしめるのと同時に、テロに巻き込まれることを恐れる外国人にイスラエルへの訪問をためらわせ、それによってイスラエルという国家に有形無形の打撃を与えて、仲間であるパレスチナ・ゲリラを間接的に助けることにあった」
「ウガンダ・エンテベ空港強襲事件(略)イスラエル軍は1時間以内に空港全域を制圧し、午後11時58分には、人質を乗せた1番機が滑走路を離陸した」
この事件、まんまハリウッド映画になりそうな凄まじさ。
「ガザとヨルダン川西岸に住むパレスチナ人が、民衆レベルでの抵抗運動を開始したことで、イスラム側は治安維持に膨大な人員を投入することを余儀なくされた。(略)逮捕されたパレスチナ人の数は二万人を超え、300人以上の死者と1万人以上の負傷者を生み出していたが、同時にイスラエル側が被った死傷者数もまた1000人を上回った。
イスラエルの国内総生産(GDP)の伸び率は、87年には5.2パーセントだったが、88年には1〜2パーセントにまで低下した。」
これは、イスラエル視点に立って考えると、国内のパレスチナ人を全員追い出すな理、殺すなりするだけでは問題が解決しない、だからこそ難しいことがわかる。
「ユダヤおよびパレスチナの両住民が複雑に入り組んだ状態で生活し、経済的にも相互に作用し合う社会がすでに形成されてしまっている」
「湾岸戦争(略)イラクからイスラエルへと撃ち込まれたミサイルの数は、最終的に39発に達し、それによって2人の死者と230人の負傷者が生まれていたが、イスラエル政府は最後まで、アメリカの要請に従い、報復攻撃を自制した。そして、イスラエル側は戦争終結と共にアメリカに対し、この時勢に対する代償を要求する。」
「ホワイトハウスの中庭で(略)ラビンとアラファトが互いの手を握り合った」
「演説のあと、ラビンは(略)参加者全員による「平和の歌(略)」の大合唱に加わった。(略)演壇から降りたラビンが車へと向かおうとした時、(略)狂信的なユダヤ教徒の(略)アミールは手に持った拳銃をラビンに向けて三発の銃弾を発射し、ラビンは間もなく、搬送された病院で息を引き取った。」
これまた、ハリウッド映画のラストみたいな幕引き(というより、作者がそういう風に書いているだけ?)。