思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『キメラ 満洲国の肖像』山室信一
☆☆☆
中公新書

新書版で三百ページだが、ハートカバーで実質的な中身は五百ページくらいのボリュームがある。秦郁彦の本みたいな感じ。タイトルが「満州」ではなく「満洲」であるところに好感を持ったのだが、著者のスタンスは真ん中よりやや左、という感じ。タイトルにもあるように、資料収集じたいは巻末参考文献からもわかるように圧倒的なものがあるので、解釈を読者が補正してやれば、主題である満洲国の興亡史じたいは俯瞰することができる。
本書の歴史解釈は、まるで日中共同研究のようだ…と思ったら、北京大学へ教えに(工作されて)行ってたとあとがきにあったので、腑に落ちた。
本書で抜けているのは、戦前戦後を通じて欧米または「中国」が作ってきた傀儡国家との比較、大東亜戦争までに日本が受けてきた戦争的挑発行為、ソ連の東進(侵略)の意図と実行、欧米の植民地でやっていた差別や虐殺、文化破壊との比較。支那(中国)と満洲、蒙古との歴史的関係性、支那人満洲人との違い、など、様々。
中でも最後に挙げた視点の欠落は致命的で、五族協和という建国のスローガンを非難しながら、文中でも満洲人と漢人を同一に扱っているのは、「中国」の工作の成果としか思われないではないか。

「言うまでもなく満蒙は中国の主権下にある土地であり」
否。満洲支那に侵略して見捨てられた化外の地漢人は立ち入り禁止)である。ましてや蒙古をや。北海道は奈良時代から大和王朝の主権下にあった、というくらいの妄言。

「欧米によって有色人種が世界中いたるところで圧迫にさらされている。(略)日本が台湾や朝鮮で圧迫する側に立っているという事実」
これまた前半は事実だが、後半は欧米との比較をすれば、首を切られるのとマッサージされるくらい違うのが事実。

「日本人の他民族に対する優越感」
これまた、事実に基づく認識なのか、ナチスユダヤ人に対するような根拠なき差別なのか、性質、能力に関する根拠は示されない(著者は差別している、という立場だから当然かもしれないが)。