思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

異常


☆☆★
早川書房

『SFが読みたい!』で上位に入っているからといって、私が面白く読めるかどうかは、全く関係ないのだが、読みたい本を探すきっかけにはなる。本作も、22年の上位に入っていて、あらすじで興味を引かれたフランスSF。
結論から言えば、全然ダメ。短編か中篇のネタを、登場人物を水増しするこで長編にしただけやん。
ちょっと面白かったのが、ちゃんと実在するSF小説や映画、おもけに各国大統領の名前が出てくること。でもなぜか、アメリカ大統領の名前は、終始「大統領」としか表記されないんだよなぁ。執筆時期には、トランプが再選するか、バイデンになるか不明だったからかなぁ……。SFだからどっちでもいいのに。

以下ネタバレ

最初は暗殺者の話から始まって、次々に視点が変わる、グランドホテル・形式。SFらしさは微塵も感じないが、読み進むにつれ、全員が乱気流に巻き込まれ大西洋上を飛ぶ特定の旅客機に乗っていたらしいと分かる。中盤に差し掛かるあたりで、その旅客機が、三月にフライトしていのだが、全く同じ飛行機と乗客が、六月にも出現したことが分かる。米政府と軍は、着陸前に、隔離してしまう。
そこから、原理の探求が始まる。理論物理学はともかく、複製人間についての主要な宗教家の見解を問うのが面白い。
また、中国でも同じ現象があったりする。
本作の問題は、これらのどれもが風呂敷広げっぱなしで、全然回収されないこと。中篇ネタだと書いた所以だ。
結局は、ひとりの作家の哲学的な、煙にまく幕切れ。これなら、たったひとりの複製ペアの話に絞れば良かったのに。
なんか後期の山田正紀のSFを読んでいるみたいだ(^^;)