思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『ジェノサイド』高野和明
☆☆☆☆★

角川ホラー文庫や、『二重螺旋の悪魔』のような、現在の人類社会に異形の存在が入り込んで来る、という話。
ミステリー的には、薬学部大学生の主人公と、急死した父。アメリカの大統領と科学部長。難病の息子を持った元特集部隊の隊員。そしてアフリカのコンゴのジャングルに暮らす小人・ピグミー族
この4つがどのように関係するのかが謎となる。
本作がまがうことなきSFであることは、序盤から中盤にかけてで明らかになる。といってもトータル580ページもあるうちの、だが…。
アメリカのいわゆる政治的暗部を描くあたりは、楡周平の『Cの福音』シリーズを連想させる。
特にSFとしては、タイトルの意味が明らかになるところにセンス・オブ・ワンダーがある。
基本的には、綿密に取材されてはいるが、いわゆる南京大虐殺についての東京裁判史観そのままを書いているのは残念(ま、普通の日本ならそうなるか…)。ジェノサイド関連で例示したんだろうけど。

「善行というものは、ヒトとしての本性に背く行為だからこそ美徳とされるのだ。それが生物学的に当たり前の行動なら賞賛されることもない。」
など、科学のみならず、哲学や倫理まで含めた人類の定義も面白い。

終盤の、アフリカのチームが脱出する件は、山田正紀の一般人が不可能ミッションに挑む冒険小説に通じる面白さがある。ただし、こちらはプロ中のプロだが…。