思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

詩人の恋

深水黎一郎
☆☆☆★
角川書店

シューマンの歌曲『詩人の恋』をテーマにした、短編集。てっきり雑誌掲載短編を集めたのかと感じるが、書き下ろし。各短編には直接のつながりはなく、ゲスト的に重なりがある程度。さらに言えば、最後の中編だけで本作の主眼はすべて盛り込まれている。
本作は、芸術探偵シリーズではあるが、シューマンの、歴史に隠された歴史ミステリ。ある種の暗号ものでもある。
残念なのは、原曲を全く知らなかったこと。特に最後の中編では、全曲通しての歌唱指導まで入っているので、原曲を知らないと全く面白さが分からないのだ。まあ、ここは、芸術探偵ならではの衒学嗜好と、作者特有のギャグシーンが絶妙なコースをついたところなのだが……。
これが色々な作者によるアンソロジーなら、バラバラにも思える作風もプラスに働いたと思うのだが……。どうせなら全作、ペンネームを変えても良かったのに(田中啓文がやってなかったっけ?)。