思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

竜のグリオールに絵を描いた男

ルーシャス・シェパード著/内田昌之
☆☆☆☆
竹書房文庫

まず、全長1マイルにおよぶ、魔法で仮死状態にされた竜のいる町、という設定を思いついた時点で勝ち、と言える。実際、似たような設定のアニメも観たような気もする(思い出せないけど)。
本作は、それだけでなく、幻想小説としても充分に面白い。私が読んだことのある中では、ジーン・ウルフのファンタジー
本連作が面白いのは、こんな設定なら、普通は最後にグリオールが復活するもの(映画とかなら絶対)だが、それをしないこと。グリオールはあくまで狂言回しというか、マクガフィンというか、舞台背景に過ぎない。
いや、SFファンなら絶対に見落とせない要素がある。周囲に精神的な影響を与える能力があるのだ。これは『ソラリス』であり、私的に最も類似性を感じたのが、『指輪物語』のサウロンである(どちらも解説では触れられていないのだが)。

『竜のグリオールに絵を描いた男』☆☆☆☆
一見すると勘違いしやすいが、「グリオールを」ではなく「グリオールに」である。もちろん、巨大かつ仮死状態だからこそなのだが、それだけでなく、絵具に含まれる毒素で、数十年かけて毒殺する、というのだから凄い(いや、順番が、逆で、毒殺するついでに絵を描く、というほうが正しい。こういう両義性も、本作が小説としての質の高さを物語っている)。その結果については、これを書く際に忘れていたことからも分かるように、どうでも良かったりする。

『鱗狩人の美しき娘』☆☆☆★
オールディス『地球の長い午後』に代表される、異なる生態系を描くタイプ。ものが巨大なので、『マクロの決死圏』的な側面もある。もしかして、『パシフィック・リム』に出てくる怪獣の寄生虫とかは、これの影響がある? それに加え、物語の柱として、奔放な女のとある事件に端を発する逃避生活と、浦島太郎的な帰還後の復讐劇でもある。
 
『始祖の石』☆☆☆★
ミステリ・アンソロジーに収録されていても何らおかしくない、法廷ミステリ!? グリオールを崇める新興宗教の教祖殺人容疑をかけられた男の弁護士が主人公で、被告と、一筋縄ではいかない性格のその娘に事情を訊いている内に、驚愕の真実(敢えて凡庸な言い回し)が……。

『嘘つきの館』☆☆☆☆
ファンタジー及び純文学的に完成度が高い一編。グリオールの上を飛ぶ姿に吸い寄せられるようにして出会った、竜の化身らしき女と一緒に暮らすことになる職人の物語……と書くと、ラノベのようだが、そんな単純なものではない。女はツンデレどころか、ろくにコミュニケーションを取らないし、(これはネタバレかな?)クライマックスではするセックスにしても、具体的な描写は読んでのお楽しみ(いや、エロい意味ではなく)としても、どうにも不気味なも。そこまでで連想したのは映画『スピーシーズ』だ。 さらに、そこかの終盤の展開は、某名作マンガを思わせるカタルシスがある。ハッピーエンドではないのも素晴らしい。