思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

13階段
☆☆☆☆
乱歩賞には、サスペンスなど、本格とは言えないミステリーが多いので、本作も舐めていたのだが、意外や意外にも秀作。
死刑制度を前面に扱い、今まで聞いたこともなかった日本の死刑制度の法律的、実際の執行の手順などが克明に描かれている。まさに中嶋博行の司法三部作に匹敵する法曹ミステリとも言える。
また、本格ミステリとしても、複雑なトリックがあるわけではないが、高木彬光的な正統派ミステリ。主人公を含め、誰もが信用できない(犯人の可能性がある)という設定と、意外と複雑な真相など、徹底的に凝ったもの。しかも、それが最初から謎ばかりで訳がわからないのではなく、後半に徐々に浮かび上がってくるという、配分もうまい。

13階段 (講談社文庫)13階段 (講談社文庫)
高野 和明

講談社 2004-08-10



『野火』
☆☆☆★

手が込んでいる映画と、そうでない映画の違いは撮影・照明に(も)ある。
本作は低予算ゆえか、画面的にはもろにビデオ撮影で、市川崑版に比べると、いかにも安っぽい。
優っている点は、カラーのせいもあるが、蘭印っぽさがしかり出ていること、泥だらけでリアリティがあること。
リアリティという意味では、戦場のリアリティが本作の最大の特徴。機関銃で撃たれれば頭が破裂し、手足がもげ、内臓が飛び出る。
当然戦死者の回収なんてできないので、そのままの状態で屍体は転がっている。
だからこそPG12なのだが、その戦場のリアリティを垣間見ることでできるだけでも、本作を観る価値はある。
ストーリー的には、いわゆる「人肉を食ってでも生き延びるしかなかった極限の南方戦線」というそれ以上でもそれ以下でもないのだが。

野火 [DVD]野火 [DVD]

松竹 2016-05-12


ホビット 決戦のゆくえ』
☆☆☆
原作的には『失われた竜の王国』で9割がた終わっているのに、どうやって水増しするんだ?と危惧していたのだが、戦争を丸々1つ付け足す、という荒技を使っている。
1つには『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』と対照させるのが大きな意図。戦争では、ドワーフ援軍とオーク軍が、共に灰色のフルアーマーで、遠目には見分けがつかないのが問題かな…。
ビジュアル的には、色彩をいじりすぎて、逆にCGっぽくなってしまっており、至高のファンタジー世界を作り上げていた『ロード・オブ・ザ・リング』から凡百のファンタジー映画に近いものに見える。
エルフ軍では、タウリエルが最悪で、それをかばうというか、共感するレゴラスも同様。エルフがドワーフに恋をするなんて、原作ファンからすれば絶対に許容できない改悪だろう。『ロード・オブ・ザ・リング』のアルウェンもひどかったが、それに輪をかけて。これに代表されるように、本作では原作から水増しされた要素が、ことごとく原作ありの映画化作品(ハリウッドでもそうだが、特に日本映画で多い)ではありがちな、恋愛やアクションの見せ場の追加など、改悪が目につく。世間的には評価されているかもしれないが、私的には『ホビット』3部作は失敗作だな…。
ただし、原作のクライマックスを素直に映像化したスマウグとの戦い(というかスマウグの襲撃シーン)は史上最高のドラゴンの活躍が見られる、一見の価値あるもの。ここまでリアルなのに、ファンタジー的な唇が動いたりするのが逆に違和感があるくらい。

ホビット 決戦のゆくえ [Blu-ray]ホビット 決戦のゆくえ [Blu-ray]

ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント 2015-12-02