思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『逆転裁判 時間旅行者の逆転』

円居挽
☆☆☆☆
早川書房J A

たまに本格ミステリでも、未来から来たとのたまう関係者が登場する作品があるが、それが作中では事実であること(SFミステリ)も、ウソであること(本格ミステリー)もあるので、そのあたりのミスディレクションも楽しみの一つ。さて本作は、序章からして、SFミステリに見えるが果たして……。
プレイしたことこそないが、有名な法廷ものミステリーゲームを元にした小説版であることは知っている。裁判が始まってみるとあからさまな、リアリティのない展開から、そのことが痛感させられる。また、さらに読み進めれば、本格かどうかは別にして、ユーモア・ミステリーであることも分かる。
これらの3要素さえ踏まえて置けば、法廷もの、かつSFミステリーとして充分面白かった。さらに、ゲームをやったことのある人なら、個性豊かなキャラクター達の活躍や、過去のエピソードから、さらに楽しめるだろう。
ただ、法廷ものとしては、現在の裁判が裁判員裁判ではなく、起訴から公判まで数日しかない、というパラレルワールド設定なのには面食らった。これはゲームじたいがそうなのかな?
SF要素としてのタイムトラベルは、それを実施したとすることで16年の時間を隔てた2部構成にしらそれが描くキャラクターの親子の関係とうまくリンクしている。タイムトラベルの方法として、タイムマシンとコールドスリープの二本柱の研究という設定は、SFとしても妥当だし、さらにトリック/プロットとしてもガッチリ絡み合っている良作だ。
ただ、文章として、三十代の刑事や弁護士を「ベテラン」と書くのは違和感あり。