思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『処刑列車』大石圭
☆☆★

映画ノベライズを多く手がけている作者だが、本作は完全オリジナルのようだ。
個別の団体名は避けられているが、JR東海道線快速アクティをジャックした「彼ら」を名乗るテロリストたちが、乗客を次々に殺害していく。
私的には、良い人間や感動的な盛り上がりが演出できるキャラばかりが都合よく生き延びる不満とは真逆の、誰もが容赦なく殺される展開は痛感……の筈なのだが、映画ならともかく、小説でこれをされると何のメリハリもなくなることが分かる。
ミステリー的には、犯人の正体すなわち、犯行の目的や動機、犯人グループや被害者のミッシング・リンクが焦点になるわけだが、本格としてはちょっといただけない。まあ、本作は変格ですらない、ホラー・サスペンスなので、映画のように二時間で終わるように読めば、それなりに(B級ホラー映画好きなら)楽しめるかも。

以下、ミステリー的なネタバレ。


本作をミステリ的に分類するなら、動機は「だれでもいい」型のサイコパスもの。つまりは狂人の論理を探るタイプ。
いちおう、堕胎を殺人とみなすタイプの復讐ものだが、生まれる前の記憶、というあたりに『ドグラ・マグラ』の影響が伺える。
それはいいとして、問題は十数人の犯人グループの誰も彼もが拳銃を持っていること。入手経路とかについては一切触れていないのだ。本作最大の瑕疵はここである。犯行現場だけでなく、その外部にも犯行が拡散する、というあたりは『コズミック』の影響があるのかも。
誰もがちょっとした不満を持ち、その手段さえあれば、悪意に元ずく犯行を行う、というところは、『デスノート』や『バトル・ロワイヤル』というより、「もしも簡単に人が殺せたら」というSF/ファンタジー小説を、スラッシャー映画またはサスペンス風に小説化したのが本作と言えるだろう。

処刑列車 (角川文庫)処刑列車 (角川文庫)
大石 圭

角川書店 2005-05-10/td>