『ピカデリーの殺人』
☆☆☆★
探偵役はシェリンガムではないが、『毒入りチョコレート事件』にも登場している、犯罪研究家のチタウィック氏。
彼がピカデリー(高級喫茶店?)で、とある老婦人の毒殺現場を目撃する、という面白い設定。上記の作品にも登場するモーズビー警部とも顔見知りなのであっさり解決と思いきや…。
確かに真犯人は意外である。
ただし、問題も多い。
事態が一片、つまり容疑者が犯人とは限らないことが明らかになるまでが長すぎ。当時のイギリス社交界の風刺的な展開に、小説としての楽しさを見いだせるかどうかが、好き嫌いの分けれ目だろう。
真相はやたら複雑で、素人探偵がほぼ独力で、大西洋を股に掛けて捜査するというのは無理がある。
その複雑さ故に、解決編も少々長い。それ自体は悪くないのだが…。これは警察ものにして、少しずつ人間関係を探って行くほうが良かったのでは?
また、訳文も難あり。先日、小泉喜美子の名文に接した後だから余計に…?
巻末の全作品紹介は非常にありがたい。
ピカデリーの殺人 (創元推理文庫) アントニー・バークリー 真野明裕 東京創元社 1984-06-08 |