『壁の男』
☆☆☆★
抜群のリーダビリティとどんでん返しの切れ味。推理「小説」としては、連城三紀彦とならぶ名手。
だが、本作においては本格成分はかなり少なめ。まるで宮部みゆきのようだ。作者の他の作品では『笑う男』(微笑む人だっけ?)に近い。
とある地方都市で、決してうまいとも、味のあるとも言えない稚拙な絵で近隣の家の壁を埋め尽くす男。彼の動機、その理由は何か?というのがその内容。
ミステリー的に分類するなら、ハウダニット。本格ミステリ的に厳しい批評をするなら、主人公のお涙頂戴の過去を、ただ断片的かつ小出しにしただけ、と言えなくもない。
本作は、凝った構成の純文学として評価・楽しむのが正しいと思う。
壁の男 貫井 徳郎 文藝春秋 2016-10-28 |