思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『神鳥』篠田節子
☆☆☆☆

地味な導入なのに、グイグイ読み進めさせる筆力はさすが。
中盤までは明治の女流画家・珠枝の名画をテーマにしたミステリーだが、鷹ノ巣に行ったところこから一気にホラーに。
広義のミステリーとしての白眉は、珠枝の朱鷺と牡丹の絵に隠された秘密が明かされるところ。これは実写化不可能なトリック(ガジェット)かも。

「幽霊だ、怨霊だと言ったって、たかだか個人的なものだろ。せいぜいが一族を滅ぼされたって程度のものにすぎない。しかし種を絶滅させられた(略)種全体の怒りが渦巻いていると考えたら、すさまじいものじゃないか?」
朱鷺に関する設定を納得させられるかどうかが、広義のSFとしての眼目。
しかも、「そこ」でき朱鷺ときたら、朱鷺からは攻撃できるのに、人間の攻撃はすり抜けるだけ、というスタンド状態。ただし○○という弱点があるあたりはホラーもののセオリーに則っている。ただし、逃げ帰った後も夢の中で攻撃してくるあたりはこれまたスタンド的。
小説としては、最終的に主人公が珠枝を上回る絵を描けたというのに納得が行かない。
逆にちゃらんぼらんに見えた小説家と、最終的にペアになる理由は、単なる釣り橋効果だけでない説得力があった。

神鳥 イビス (集英社文庫)神鳥 イビス (集英社文庫)
篠田 節子

集英社 1996-10