思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『失われた過去と未来の犯罪』小林泰三
☆☆☆★
角川書店

事前情報がない場合、その作品がSFなのかミステリなのか、どうやって判断(予想)するのか。たいていの作家は一つのジャンルをメインに書いているので、作家で判断できるであろう。
ところが、それが通用しないのが山田正紀であり、小林泰三だ。
本作も、二部構成の一部は、『昨日を忘れてた今日の僕』を代表とする、前期健忘症(短期記憶障害)のバリエーション。ただし、それが全世界的に起こったこと、その設定(人間の脳は十分ほどで短期記憶から長期記憶に以降する)が十分と短いことが特徴。さらに、それが原子力発電所ではどうなるか、を描いた、パニック/シミュレーション/サスペンス(まとまりとしては広義のミステリー)SFとなっている。
第二部になると、その後、人類は記憶を外部メモリに蓄積することで、以前と変わらない文明生活を送るようになる。ここまでなら、作者の初期短編を焼き直したものだが、そこから本作では、その設定から生まれる記憶やメモリの使い方から生じる問題を連作短編的にあらゆる可能性を描き出す。このあたりはホラー作家としての面目躍如である(グロではなく、あくまで精神的な)。
それで終わるかと思いきや、本作はラスト数ページで思わぬ飛翔を遂げる。これを後期クラーク的な無理矢理さと取るか、『ターミナル・エクスペリメント』(ズバリ挙げるとネタバレかな?)なSF的センス・オブ・ワンダーと取るか、意見が分かれるところだろう。私は後者だが(これで星半分評価が上がった)。