思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『冷たい太陽』
☆☆★
原書房

量産作家だからこんなものかもしれないが、中身が薄い。
ある意味では、ドラマや映画のような文字通り芝居がかったものではないリアルな会話なのかもしれないが、短い会話が飛び交う上に、改行や一行開けも多く、本文スペースの六割くらいは空白かもしれない。315ページだが、講談社ノベルスなら180ページで収まるのではないか。
カバーにも多数の登場人物が描かれているように、特に序盤、本作では様々なカットバック的に次々出てくるので、どう絡んで来るのか(ミステリーだから、当然、この中に犯人がいるわけで)少々把握するのが面倒くさい。ま、さすがに量産作家だけあって、短い文章で登場人物の特徴を書き分けてはいるので、混乱することはないが…。
最近の誘拐ものなら、さてここから本腰の捜査、というあたりが本の位置的にはもう終盤。家族の一人の女子高生がネットで見かけた私立探偵社に解決を依頼するところから、本作はガラッと趣を変える。
警察の捜査本部が、関係者のアリバイをあっさりと認めて「こいつはシロだな」などと連発していくあたりは、まるで素人の高校生が書いた習作みたいだと思ったが、それには納得できなくはない理由があったのだ。
その割には、容疑者宅を張り込む覆面パトカーから離れる捜査員が、自ら偽装のために「駐車違反ステッカーを貼る」なんて、取材しないと分からないような小ネタもあったりするのだが…。
吉村達也レベルの佳作として臨めば、十分に元が取れる費用対効果のある作品。