思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『銀幕のメッセージ 女子大生 桜川東子の推理』
☆☆★

ダイイング・メッセージものを集めた中編集。
基本的にはギャグや軽い会話劇の、ライトノベル(ライトミステリー)。
本格というより、グダグダとボケとツッコミ、蘊蓄を並べて、頃合いになったら、真相なるものを提示して終わり。伏線も何もない。

『帝国のゴジラ』☆☆☆★
ゴジラをネタにしたもの。ダイイング・メッセージ二重にひねっているものの、先に書いたように特に意外性は感じない。

『崖の上のファンタジア』☆☆★
本作でのダイイング・メッセージの解釈は、唯一、本格でも通用するもの。ただし、本筋たるバイト仲間の人間関係の描写については、読んでいるうちにどうでもよくなってくるのだが……。


『スパイはつらいよ』☆☆
映画のスクリーンに突っ込んだ人物が、別の場所で墜落死していた、というのは『九つの挑戦状』を思わせる(レベルの)謎だが、このての謎は、よほど巧みな小説力で引っ張らないと、真相を明かしても「なにそれ」と呆れられる。本作もそれに留まっている。
ただし、映画談義としての『寅さん』話はそこそこ楽しかったりするのだが。

ピクセル』☆☆★

最近の作品で、宣伝もそれなりにやってたせいで、普通の大作映画(A級とB級の間)みたいに見えるのだが、中身はB級とC級の間。平日の午後にテレビでやってるタイプの作品である。
まあ、異星人が80年代のビデオゲームに擬態して襲ってくるという設定からしてバカバカしい(^_^;)
ただ、光エネルギーの異星人という設定はSFファン的にはなかなか考えさせられるものがある。もっとも、本作に関しては何も考えてないだろうけど……。
主要登場人物もゲームオタクばっかりだし。小人を堂々とメインキャラに出すあたりが凄いというか、C級だからこそ、というか……。
CG時代ならではの作品だが、ピクセル表現になってるくせに、ピクセル内部にさらに細かいピクセルがある、という矛盾。
ストーリーは、オタクのくせにドライビングテクニックが卓越してるとか、何より異星人が操ってるはずのドット絵美女がリアルかつ味方になる、などメチャクチャ。特に登場人物たちのドラマ的には好もしいところは何もないと言っていい。
ゲーム的にも、パックマンにせよ、ドンキーコングにせよ、ゲームのルールが変えられているのも不満。まあ、映画としてはアレンジしたいのは分からなくはないのだが……。いちおう冒頭にはオリジナルが出てくるのでね。
ただし、唯一良かったのは、ムカデみたいなインベーダーのスピーディーな動き。

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ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2016-07-06

『ジョジリオン(13)』☆☆☆☆

8部で初めて素直に(第5部以前並に)面白いと思った1冊。
主人公の正体もようやくはっきりした。……というより、もはや謎はなくなってしまったと言っても過言ではない。まるで、第4部で、吉良を取り逃がして、顔を変えられた後でもまだまだ続いたのを彷彿させる。
ダモの、第5部のマフィアを思わせる凶悪さも凄い。あとは、主人公サイドの負傷っぷり。憲助なんて、片手がなくなるわ、定助も肝臓を取られるわ……ロカカカの実を食べて回復させるのかなぁ……?
荒木イラストを楽しめるかいかんで、第8部を楽しめるかどうかが分かれるが、今回は後半の定助の「喜んで……オレノ身体と交換するよ」の顔が素晴らしい。
ラストの逆転劇も、しっかり伏線があり、なおかつカタルシス(鳩のハイキック!)もあって大満足。
過去のエピソード中で、携帯に「ジョセフ」と英語で書かれていたのを見て、ようやく「ジヨセフミ」が第二部主人公から引用されたものだと気がついた。……が、この主人公、ジヨセフミと呼ぶべきか、ジョウスケと呼ぶべきか……。はたまた吉良?

内藤よし人『他人を動かす質問』を読む

印象に残ったところ

「好意的な返事をしてほしければ、好意的な返事をするような誘導をすればいい(略)相手に好意的に反応してほしいときには、「うちの会社のどんな点が魅力的だと思う?(略)」と質問すべき」

「相手に動いてほしい(略)勝手に相手の善意をアテにして、しかもそのとおりに動いてくれないからといって、むやみに腹を立てることこそ、筋違い」

「「わかった?」は禁句(略)私たちは、他人から「わかった?」と質問されると、条件反射的に、「わかった」と言ってしまうもの(略)面倒な話が終わると思うので、とりあえずそう答えてしまうのである。」

「1 まず理想を聞く 2 それから現実を聞く という“2段構え”にしておく(略)と、人は現実的な答えを言ってくれる」

『裏社会 噂の真相』中野ジロー
☆☆☆★

「小指が欠損していると日本刀を握る手に力が入らなくなり、喧嘩の際に大きなハンデになる。」

トカレフ(略)日本で出回っているのは、主に中国のコピー品で精度が悪く、どこに銃弾が飛んでいくかわからないのであまり人気はない。」

「抗争相手といえど、個人的な恨みもない相手をどうして殺せようか。ヒットマンとなった多くの者は逃げ出したい気持ちを抑えて、ターゲットの元へ向かう。」

裏社会 噂の真相裏社会 噂の真相
中野 ジロー

彩図社 2012-10-31

遠すぎた橋
☆☆☆☆


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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 2017-08-02


矢部輝夫『奇跡の職場 新幹線清掃チームの“働く誇り”』を読む

印象に残ったところ

「仕事に対してやる気を出してもらうために私が考えたのは、現場で働く人に仕事への「誇り」と「生きがい」を持ってもらうこと。」

「現場スタッフの能力は高くまじめで、仕事にも真剣に取り組んでいた(略)。その取り組みが現場の活気につながっていない。(略)スタッフのがんばりがきちんと評価されていないのは、会社のマネジメントが悪いのでは……」

「「とんでもないこと」を言い出すスタッフもいないわけではありません。(略)そんなときに(略)頭から否定してしまったのでは何も生み出せません。本人は良かれと思って発言したわけですから、否定されたことでモチベーションも低くなってしまう可能性があります。 そうではなく、「なるほど、おもしろいな。できるかどうか約束はできないが、どうしたら実現するか一緒に考えていこう」と反応すれば、そこには前向きな空気が生まれます。(略)どんなときにも、画期的なアイデアや改革は、絶対多数から反対されるような「とんでもない話」から生まれるものなのですから。」

「経営者と従業員との間であれば、経営者の「あたたかさ」を従業員に伝えることにあると思っています。「思いやり」「おもてなし」もお客様に対してだけでなく、従業員に対しても同様の考えで臨むべきなのではないでしょうか。」

『連続殺人鬼カエル男』中山七里
☆☆☆☆★
宝島文庫

ネタバレなしで感想を書くのが難しいが、ヘタウマ的なカバーと、脱力するタイトルに惑わされずに読むべし、とは言える。
一見すると、新本格にありがちなだけのミステリに思えるが、長編数作ぶんの多様な要素をぶちこんだサービス精神だけでなく、社会派的な小説的テーマもどすんと来るようになっている。
グロが苦手な人には死体描写がつらいかもしれないが、中盤以降の展開へ向けて必要なプロセスと言える(私的には百パーセント首肯できないが)。


以下、ネタバレ。
下に行くに従ってメイントリック(サプライズ)に言及します。


本作の特徴が、グロ、およびバイオレンス描写だ。
特に主人公への追い込みは尋常ではなく、『ジョジョ』第5部か? というくらいのズタボロっぷり。普通なら3回死んでる(^_^;)ラストのカエル男ならぬミイラ男っぷりは、映画版で確認したくなる……が、まあ、そこはタレント事務所的に原作に忠実にはしてないだろうなぁ……。
唯一、「ちょっとこの展開はリアリティに欠ける」と序盤から不満だったのが、社会の過剰な怯えかた。猟奇的な連続殺人になる前、最初の死体吊るし事件からそうなのは、いささか不自然。
中盤にある暴動に繋げるための布石だと分かるのだが、それ自体にも、中盤を盛り上げるためにしか思えない。映画ならともかく、小説としては、この警察署襲撃シーンは丸々カットしても何ら問題ないのだ。いちおう、昭和に大阪西成であった史実を引き合いに出してフォロー(言い訳的な説明)はしているのだが……。前に読んだ映画脚本的に言えば、主人公が反転攻勢に出るために、婦警が少女を守るところを見せる必要があったのかもしれないが、市民による警察署襲撃という非現実な読者が「引く」というデメリットに引き合うものだったかどうかは疑問。
本格ミステリとしては、「犯人」が逮捕されてからが白眉である。「犯人」の青年が、大の大人以上の力がある、というのは少々御都合主義に思えるが。これは主人公を肉体的に追い込む為の設定とともに、今回の犯人の条件でもあるのだが……。
先に「」つきで犯人と書いたのは、彼を操っていた真犯人がいるから。女が犯人だということは、国産某ミステリでの鮮やかな前例があるので、読む前から疑っていたが、それでも、聖女から『ジョジョ』2部のエシディシに操られたスージーQくらいのドグサレっぷりの落差が凄い。特に聖女版での、ピアノ療法での主人公の癒されるのを読んで、読者まで癒された感を抱いていた身としては、衝撃である。暗闇でのバトルは、スパイものか、というくらいこれまた執拗に主人公を追い込む。
本作が凄いのは、ここからさらに2つのツイストがあること。それについても、しっかりと序盤から出ていた刑法39条や、精神病治療に沿った犯罪計画になっていること。
それだけで済んでも十分な満腹感だが、本作にはラスト一行のサプライズまで用意されている。それも、単なる「連続殺人は終わらない」だけに終わらないのが巧みなのだ。ある意味では、円環が閉じるとも取れるダブルミーニング
これで、中盤の警察署襲撃がなく、女に主人公が殺され、真の真犯人に対するのは主人公のメンターとも言える上司なら、文句なく☆☆☆☆☆だったのに……。